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シーラカンス
シーラカンス
novelistID. 58420
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人食いトロルと七色のバナナ

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 ようやく二人にもことの顛末が見えてきた。
「それではぐれてしもうたんやな」
「そうじゃ。あれはとてつもなく不幸な災難じゃった。砂漠に辿り着いたちょうどその翌日、猛烈な大砂嵐が襲ってきての。わしは爪を岩につきたてて難を逃れることができたんじゃが…彼女は風に乗ってどこかへ飛ばされていってしまった。信じられん…今でも信じられん思いじゃ。後にも先にもわしはあんな恐ろしい目にはあったことがない。砂嵐が去った後、わしは来る日も来る日もマージョリーを探した。彼女を見失った場所で100年ほど待ってみたりもしたが、彼女は来なかった。そうして過ごす内に、年を取り、甲羅は苔むし、今ではこのような有様じゃが、わしは今でもこの砂漠でマージョリーを探しておる」
「けなげだなぁ」
 キーゴが感心して言うと、ラープスはまたあの歌を歌いだした。

  おお、愛しのマージョリー
  日向に咲くマージョリー
  君の甲羅に一輪のアカノリグサを
  君は大海の可憐な星

  ああ、可愛いマージョリー
  砂漠を見たいとマージョリー
  早く出会って大輪のヒラフサバナを
  君は僕の唯一の亀

「まあ、なんというかこうして話聞いたうえで改めて歌われると、聞き方が変わってくるわな」
 さすがにジヴもラープスの思いの強さには感銘を受けたようだった。
「お若いの。鏡山が見えてきたようじゃぞ」
 ラープスに言われて前方を見ると、確かに雪に覆われた鏡山はもう目と鼻の先だった。
「ほんまや。送ってくれてありがとうな、じいさん!」
「ああ、お役に立てたようで何よりじゃ」
 そう言うと、ラープスは二人が体から下りやすいように、そっと首を地面につけてくれた。地面からはすでに冷気が立ち上っていた。
「ほんま、助かったわじいさん!」
「お若いの。鏡山には気をつけるんじゃよ。あそこには人を惑わす雪の精がいるという話じゃからな」
 そう言うと、ラープスはくるりと背を向けて、また砂漠に戻って行ってしまった。
「さようなら!おじいさん、マージョリーが無事に見つかりますように!」
「ほななー!」
 二人がラープスに背を向けた後も、しばらくは、ラープスのあの歌が砂漠に響いていた。

  28、氷の鏡

「まわりは普通のお山なのに、このお山だけ真っ白だよ!すごいね〜」
キーゴは鏡山を前にして心底感心したように言った。
「しかもこの寒さ。本物の雪やんな」
 青々とした木々が茂る大きな山々が連なる中で、ふもとから氷に覆われている鏡山は見るからに異様だった。
「あ、あそこに道があるね。これなら地図がなくても進めるよ!」
「ああ、もともと地図には鏡山をどう登っていけばいいなんて書いてへんかったからな。この道にそって進んでいったらええと思うわ」
 ジヴとキーゴが進む方向には、一本の山道がらせん状に伸びていた。不思議なのは、周りが雪や氷だらけなのに、その一本道だけ雪かきでもされたように、きれいに地面が見えていることだった。そしてそれはずっと上まで、続いているようだった。
「一見不思議やけど…要するに、ウェルカムってことやな」
「わー、山さんが僕たちを歓迎してくれてるんだね!」
 二人はのんきに考え、その道を上りだした。
「しっかし、壁の方はものすっごくツルツルやな。俺のかっこいい姿がバッチシ映っとるわ」
「僕も僕も!わー!僕ってこんなだったんだね」
 雪が凍りつき、完全に道の山側の側面は氷で覆われていた。それはまるでらせん階段に並べられた氷の鏡のようだった。そこに道を上っていくキーゴとジヴが映っていた。
 キーゴは面白がって寒さを忘れ、自分の映る姿を少し遠のいて見てみたり、逆に思いっきり顔を近づけたりして遊んだ。
「おい、いつまで遊んでんねん。さっさと先行くで。この辺はあのラープスのじいさんが言うには『雪の精』なんていうもんが出るらしいからな。さっさと越えてしまうんが勝ちや」
 ジヴは足を止めずに言った。吐く息は白く、歩みを止めるとそのまま凍ってしまいそうな寒さだった。
「あ、待ってよ〜。ジヴ〜」
 キーゴは慌てて坂道を駆け上がった。 
  
キーゴが走り去った後、どこからか「ふふふふふっ」という女の子の笑い声がした。
 しかし、その声は風のぴゅーぴゅー吹く音に紛れ、ジヴとキーゴには聞こえなかった。

  29、雪の精

 道は上がったり下がったりを繰り返しながら、徐々に山の頂上へと近づいていった。
 山は進むに連れてどんどん寒く、雪が風に吹かれて踊るように舞っている。
「寒いよう、ジブ」
 もともと薄着だったキーゴにはつらい道のりになってきたようだった。
 ジブはキーゴを抱えると、自分の毛皮でキーゴを包むようにして先へと進んだ。
「大丈夫か?なんか食うか?」
 ジブはリュックの中からラープスの甲羅に生えていたきのこを差し出した。
「大丈夫…それよりも、眠いよぉ」
 キーゴはうつらうつらし始めた。
「駄目や!寝るのは一番あかん!起きてるんや。そんな眠気、眠り苔の時と比べたら屁でもないわ!」
「うー…ん。がんば、る…」
 キーゴは船を漕ぎながらも、自分で自分の頬を叩いたり、親指と人差し指で目を無理やりこじ開けてみたりと、眠らない努力をした。その時。
「ふふふふふ、ふふふふふふ」
 あの声がした。今度は二人にもはっきりと聞こえた。とても楽しそうな女の子の声だ。
「なんや?」
 ジヴはあたりを見回したが、誰の姿も見えない。
 不思議なことに、いつの間にか今まで上ってきた道は途切れ、ジヴたちは少し開けた場所に立っていた。そしてその広場をぐるっと囲うように、ツルツルとした氷の壁が立ちはだかっていた。
「ふふふふふふ、ふふふ」
 笑い声は止むことがない。その声はジヴたちを取り囲むように、鏡のような氷の壁の全ての方向から聞こえてきた。
「なんや?誰やねん、気味の悪い。姿を見せたらどうや!?」
 ジヴはあたりを見回しながら叫んだが、見えるのは氷の鏡に映った自分の姿ばかりだった。
「あれ〜…ジヴがいっぱい…」
 夢うつつのキーゴはジヴの腕の中で寝起きのような声を出した。
「寝ぼけてる場合ちゃう。きっとこれが例の『雪の精』や。お出ましになったようやで」
 ジヴはキーゴを起こすためにいったんキーゴを下に下ろし、自分で立たせた。
「ふふふふ、ふふふふ」
 次の笑い声が聞こえたとき、またもや不思議な現象が起こった。
 なんと女の子のような笑い声を上げているのは氷の鏡に映った何体ものジヴだった。
さらにそれぞれが、実際のジヴとは全く違うポーズを取り、好き勝手に動き回っていた。
 誰かを怒鳴りつけているジヴ、踊っているジヴ、あかんベーをしているジヴ、と実に様々だった。
 しかし、最終的にはみんながみんなジヴたちを見てクスクス笑っていた。
「な、なんやねんこれは…!」
「ジヴだらけだ〜」
 二人はびっくりして固まってしまった。 その一瞬の隙を突いて、今まであかんベー
をしていたジヴの鏡像が氷の鏡から飛び出した。
そして、そうっとキーゴに近づくと、さっと宙を舞いながら連れ去っていってしまったのだ。
「ふふふふ、可愛い子。捕まえた」