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シーラカンス
シーラカンス
novelistID. 58420
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人食いトロルと七色のバナナ

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 はしゃぐキーゴを尻目にジヴはラープスにこれまでの経験、森や砂漠で起こった出来事を話した。
「それでな、あいつ、苔の原で俺のへその下に水筒置いてん!」
 ジヴがラープスの甲羅に生えている実を夢中で食べながらする話を、ラープスは穏やかにうんうん、と頷きながら聞いていた。
「…そんで?じいさん。マージョリーとの話って結局なんやねん?」
ジヴは自分が一通り話し終えてしまうと、今度はラープスに話を振った。
「まあまあ、そんな慌てんでも。時間はたっぷりあるからの」
 ラープスは若き日の自分を見るかのように、まぶしそうに目を細めながらジヴに言った。
「そんなこと言っても、もうこっちは十分に話さしてもらったわ。悪いけどこっちは急いでんねん。水と食料が切れんうちに鏡山までいかなあかん」
 言いながらジヴは、今度はラープスに生えている食べられる実をせっせと自分のリュックにつめ始めた。
ラープスは合点がいったとばかりに頷いた。
「ああ、鏡山か。お前さんたちも七色のバナナを取りに行く口かの。確かに鏡山を通るのは一番の近道じゃが…。ありゃあ、よしたほうがいい、若いの。わしは鏡山に行って、帰って来た奴を見たことがない」
「僕たちは大丈夫!だってジヴがいるもん」
 今まで泳ぎ回っていたキーゴが水の中から突然声を張り上げた。
「そうかい。まあ、わしは止めん。どう生きるかはそれぞれじゃ。行き急ぐもよし。災難を避け続けるもよし…よし、わしが鏡山まで送って行ってやろう」
 そう言うと、ラープスはゆっくりと足を進め始めた。ラープスの歩みはゆったりとしていたが、なにせ体が大きい分、歩幅があり、一歩でずいぶんと進んだ。
「ほんまか!じいさん!」
「ありがとう!おじいさん」
 二人は喜んた。
 しかし、ラープスの次の言葉に二人は不安を覚えた。
「…あー、ところでのう、お若いの」
 ラープスは言った。
「わしの上にいつの間にか乗っているお若いの。マージョリーを見かけなかったかね?」
 ジヴとキーゴは二人して顔を見合わせた。
「おい、じいさんなに言ってんねん。それ話したい言うから、俺らここまで上ってきたんやろうが」
「はて、お若いの?お前さんたちはいったいどこのどなただね?」
「僕はキーゴ、こっちはジヴだよ」
 キーゴは不安を覚えながらも丁寧に言った。
「そうかそうか。それでわしにいったい何の用で…?」
「おい、これまずいんとちゃう?このじいさん、見事にボケてるで」
 ジヴはまたすばやくキーゴに耳打ちした。
「うーん…」
 これにはキーゴも少し困った。
「まあ、せっかくの来客じゃ。ゆっくりしていきなされ」
「だからこっちはゆっくりしてられへんねんって!」
 ジヴが思わず怒鳴ると、ラープスは少し考え込んだ顔になり
「おお、すまなかったお若いの。鏡山じゃったな」
 と言ってまた歩き始めた。
「よっしゃ、戻った」
「よかった。ねえ、おじいさん、そろそろマージョリーさんの話を聞かせてよ」
 キーゴはラープスにねだった。
「ああ、ええよ、小さいの」
 そう言うと、ラープスは歌うように話しだした。

  27、ラープスとマージョリー

「昔むかーしの、まだわしとマージョリーが若かった頃…三百年は前じゃったかなあ。わしは砂浜を歩いておって、そこでマージョリーに出会ったんじゃ」
「うんうん」
「今でも覚えておる。その時マージョリーは大好物のヒラフサバナを食べていた。その姿にわしは一目ぼれしてしまったのじゃ」
 ラープスは歩みを止め、遠くを見るように目を細めた。
「いや、じいさん。貴重な話のとこ悪いけど、止まらないで話してもらえるか?」
「あー、そうじゃった。つい若かりし頃のマージョリーを思い出してな…はて、わしらはどこに向かっておったんじゃか?」
「鏡山や鏡山!」
「あー、そうじゃったそうじゃった。鏡山…はて、マージョリーの話は…」
「じいさんが一目ぼれしたところからや!」
「あー、そうじゃった…」
「なんだか長くかかりそうだね…」
 今度はくぼみのプールから上がったキーゴがそっとジヴに耳打ちした。
「ああ、長丁場になるな。そやから鏡山に行く事だけは忘れんといてもらわんと」
 ラープスが極端に忘れっぽいのを理解した二人はこそこそと話し合った。
「そこでわしはマージョリーの気を引くために彼女が砂地に日向ぼっこをしに来る時間を見計らって、毎日大量のヒラフサバナを送った」
「ヒラフサバナってなーに?」
 キーゴが尋ねた。
「ああ、小さいの。ヒラフサバナは彼女の大好物。赤くてひらひらした花のような植物なんじゃ」
「『花のような』っていうことは、花じゃないの?」
 キーゴは続けて聞いた。
「ああ、花ではない。花に似ているけどな。マージョリーは晴れた日の日向ぼっこ、それにヒラフサバナを特に愛しておった」
 そう言うと、ラープスはまたもや歩みを止め、遠くを見始めた。
「そんでじいさん!『歩きながら』話して欲しいんやけど、そのヒラフサバナプレゼント大作戦はどうなったんや?」
 ジヴが慌てて、話を促した。
「ヒラフサバナ…?はて…?あー、そうじゃったのう」
 そういうとラープスはまた歩き始めた。
「はて…?わしらはどこに向かっているんじゃったか?」
「「鏡山!」」
 ジヴとキーゴは二人そろって叫んだ。
「おぉ、そうじゃったなぁ。年寄りになると、記憶力が…」
「ええから、続き話してんか」
 ジヴは少しいらいらしながら言った。
「そうそう。しかしマージョリーの心はヒラフサバナだけでは掴めんかった。そこで、わしは今度は、毎日野山の花や小さな木をプレゼントした」
「なんや、またプレゼント大作戦か。ワンパターンやな」
 そうジヴが呟いたので、キーゴはたしなめるように無言でジヴのお腹を肘で突いた。
「マージョリーは自分の頭や甲羅を花や植物で飾るのがことのほか好きじゃった。その材料になりそうな植物を、わしは自分の住んでいるところから必死で探して渡した」
 そこでラープスはため息を付くように鼻からふうーっと息を吐き出した。
「その植物たちがマージョリーには珍しく見えたのじゃろう。ようやく彼女からオーケーがもらえた」
「やった!これでめでたしめでたしだね!」
 キーゴが両手を叩いた。
「ところがそうはいかなかったんじゃ」
 ラープスはまたさっきとは違った鼻息をフイーと吐き出した。
 今度のため息はとても悲しげだった。
「彼女とわしとは住む世界が違っていた。彼女は箱入り娘でな。彼女の両親はわしらが結ばれることに大反対じゃった。じゃから…」
 ラープスはまた足を止め、今度はがっくりとうなだれてしまった。
「二人でお互いの住処を出た。しかし、思えばそれが間違いじゃった…」
 キーゴはこの話を聞いて素直にどうなったのかはらはらしていたが、ジヴはどちらかと言うと、またラープスが目的地を忘れたのではないかと、そちらの方が気がかりだった。
 しかし、今度はラープスも目的地を忘れたりはしなかった。うぅー…とうめき声を上げた後、また鏡山に向かって歩き始めた。
「どこに行くかも決めずに二人は歩き出した。その旅の途中で、彼女がふとわしに『砂漠が見てみたい』と言ったんじゃ」
「それでここに来たんだね」