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シーラカンス
シーラカンス
novelistID. 58420
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人食いトロルと七色のバナナ

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「ジヴはこっち側まできたことはないの?」
 キーゴは足の裏で温度を確認するかのように、片足ずつ交互に飛び跳ねながら尋ねた。
「ないなぁ…森から出る必要なんかなかったしな。それどころか、あの馬鹿ネコがやらかしてくれたおかげで、地図もこっから先の道もよく分からんし、土地勘ゼロやで」
 ジヴは『お手上げ』と言わんばかりに両肩をすくめて見せた。
「えー!?じゃあ、どうするの?」
 キーゴは心配そうにジヴに尋ねた。
「でもな、目印は分かってんねん。このバラバラになってしもた地図によるとな、バナナを手に入れるためにはあの山を越えるのが一番の近道やねん。だからとりあえずあの山を目指して歩いて行けばええんとちゃう?」
 ジヴが指差す『あの山』をキーゴは目で追った。
 広い広い砂漠の先は山岳地帯になっていて、その中に他の山々より一回り小さい山が見えた。その山はなぜかほかの山に敬遠されているかのように、孤立していた。さらに、その山のてっぺんには雪が積もっているように見えた。
「ジヴ!あの山、雪が積もってるよ!」
「そやねん、不思議やろ?あそこは鏡山っていうらしい。俺も名前だけは知っとる。なんでも一年中氷と雪に覆われた山らしいで」
「暑い次は寒いのか〜。僕、寒いの苦手だよー」
「俺は暑いほうがだめやけどな。今もこの毛の下汗びっしょりや」
「確かにジヴは毛皮だもんね」
 キーゴはふふっと笑った。
「まあ、とにかくや。水も食料も一時の草原で結構いっぱい取っておいたからな。あの山目指してさっさとこの砂漠抜けてくで!」
「うん!行こう!」
 こうして、二人は灼熱の砂地を歩き始めた。

  25、ラープスとの遭遇
 
 そうやってまた一ヶ月が経った。
 この日、二人は大きな問題に直面した。水と食料が尽きてしまったのだ。
 ジヴは水を飲みたがるキーゴをなだめたりすかしたりしながら、自分も飢えと乾きに苦しめられていた。
「ねぇー、ジヴ」
「…水ならあらへんで」
「でも喉渇いたよー」
「雨でも降らん限り、無理やろうな」
「雨は当分の間降らないよ。僕には分かるもん。ねぇ、ジヴ、水水水!このままだと干からびてしんじゃうよー!」
 叫びたいのは、ジヴも同じだった。徐々に近くなる鏡山の面影だけが唯一の救いだった。
「うるさいわ。もう少ししたら、きっと何とかなんねん」
 そんな保証はどこにもなかったが、ジヴはそう答えるしかなかった。
「もう少しっていつ〜?」
 キーゴはふてくされているようだったが、やがてピクンと何かに反応するように急に顔を上げた。
「ねえ、ジヴ?何か聞こえない?」
「何かって何や?暑すぎて幻聴聞こえてるのとちゃうか?」
「違うよ!よく聴いて。ほら」
 キーゴに促され、ジヴが改めて耳を澄ましてみると、確かに何か聞こえてくる。
 それは何かの歌のようだった。
「なんや?誰か歌っとるんかいな」
『…ジョリ〜。我が愛しの…』
 そして、歌う声が大きくなってくると共に、巨大な大陸が、(それはまさしく四本足が生えた大陸だった。)が、こっちに向かってやってきた。
「な、なんやねん、これは…!」
「お、大きいね〜!」
 キーゴも目を真ん丸くさせた。
 さらに驚くことに、その四本足の巨大な大陸はジヴたち二人の前に来ると、足を止めた。 
そして、長い首を地面に近づけると、二人にこう尋ねた。
「なあ、あんたら。マージョリーを見なかったかね?」
 二人がびっくりしながらも、その正体を見極めようと、大陸全体をよく見てみると、それは大きな、本当に大きな、亀のおじいさんであることが分かった。
「マージョリーを見なかったかね?」
 亀のおじいさんはもう一度ジヴたちに尋ねた。
「「マージョリー?」」
 二人の声が重なった。マージョリーなんて、聞いたこともない。
 困惑する二人を尻目に、亀のおじいさんは「そう、マージョリーじゃよ」と頷いてから、こんな歌を歌い始めた。

  おお、愛しのマージョリー
  日向に咲くマージョリー
  君の甲羅に一輪のアカノリグサを
  君は大海の可憐な星

「素敵な歌だね〜」
 キーゴが褒めると、亀は気をよくしたようだった。
「ありがとう。わしが作ったんじゃよ」
「おっさん、言葉が分かるんやな」
 ジヴが二人の会話を遮って尋ねた。
「ほっほっほ。威勢がいいの、若いの。わしみたいにこうも長く生きているとな、たいていどの生き物の言葉も分かるようになるんじゃよ」
 亀のおじいさんはジヴの無礼な口の利き方に別段気を悪くしたようでもなく答えた。
「おじいさん、僕はキーゴ、この人はジヴって言うんだよ。おじさんは名前なーに?」
「わしか?わしは…えーと、わしはなぁ、確か、そうラープスというんじゃよ」
「じいさん、自分の名前も忘れそうなんか」
「何分、長く生き過ぎてしもうとるからの」
 ラープスはおっとりと答えた。
「…ところで…君たちはマージョリーを見なかったかの?」
 しばらくの妙な間が空いたあとで、ラープスはまた二人に尋ねた。
「だからマージョリーってなんやねん!」
「マージョリーはな…」
 そう言うと、ラープスはまた歌い始めた。

  ああ、可愛いマージョリー
  砂漠を見たいとマージョリー
  早く出会って大輪のヒラフサバナを
  君は僕の唯一の亀

「綺麗な声だね〜」
 キーゴが褒めると…
「いや、もうこの流れはええねん!要するに亀なんか?マージョリーは」
「そう、わしの永遠の想い亀なんじゃ」
「はぐれちゃったの?」
「そうなんじゃ、まあ、立ち話も何じゃし、上で話を聞いてもらえないかのう?」
 ラープスはそう言ってさらに首を低くした。どうやらラープスの言う「上」とは、自分の体の上に乗れという意味のようだ。
「悪いけどじいさん、俺ら急いで…」
「もちろんいいよ!」
 ジヴが完全に言い終わる前にキーゴが元気よく答えた。
「なんでやねん!年寄りの話はオモナガシロスジヘビの顔面より長いって相場は決まってるんやで?一刻も早く鏡山に辿り着きたいっちゅう時に…」
 ジヴはこっそりキーゴに耳打ちした。
「僕もうへとへとだし、お邪魔させてもらおうよ」
 キーゴは言うが早いが、ジヴを置いてさっさとラープスの頭の上によじ登りに行ってしまった。
「あ、おい!ちょっとまてや!」
 こうなってはどうしようもなかった。面倒だとは思いつつも、慌ててジヴもキーゴの後を追いかけた。

  26、ラープスの物忘れ

 結果的に、このキーゴの選択は大正解だった。
 ラープスの甲羅の上まで上ってみると、そこには大きなくぼみがあり、そこに雨水がたまって、一種のオアシスのようなものが出来ていた。
 そのくぼみの周りには苔や何かの実まで生えていて、ラープスによればそれは食べられるということだった。二人は久方ぶりにお腹がいっぱいになるほどの食べ物と水にありついた。
「ひゃっほーい!」
 キーゴなどはジヴが止めるのも聞かず、くぼみのプールに飛び込み、バタ足をしながら泳ぎ回っていた。
 そんな様子をラープスはこちらに首を回してニコニコしながら眺めていた。
「ほっほ。やっぱり若いと元気いいのう」