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シーラカンス
シーラカンス
novelistID. 58420
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人食いトロルと七色のバナナ

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 ジヴは地図を見ながら考え込んだ。ヨナキネコの巣なんて、地図には載っていなかったからだ。
「うーん…」
「メェ〜ベェー」
 と、突然リュックの中のヨナキネコが鳴き始めた。
「なんやお前腹でも減ったんか?…ん?腹、か」
 ジヴはなにやら思い付いたようだった。
「よっしゃ!こっち行ってみよか」
 そう言って、ジヴは地図を指差した。そこには「一時の草原」と書かれてあった。

  22、一時の草原
 
 一時の草原は森の端、比較的出口に近いところにあった。
「ここは常にヨナキネコの餌になる『タレミミウマ』がぎょうさんおんねん。それにつられてヨナキネコが来とるのを何回か見たことあるわ」
 ジヴが示した先には、まるでサバンナの草原のような場所だった。少し離れた場所には泉のようなものも見える。
 そこここでタレミミウマの群れ群れが、草を食べたり、水を飲みに来たりしていた。
「うわ〜、お馬さんがたくさんいるよー」
「まあ、ここは言ってみれば憩いの場やからな。こいつの飯になりそうなイトキリネズミとかヒカリモグラなんかもぎょうさんおるやろうし。でも、前にも言ったけど、俺は世話せぇへんからな。お前がこいつの餌捕ってくるんやで」
「はーい」
 二人は目印になるようにと、大きな一本の大木の下に腰掛け、しばらくそこで野宿をすることにした。

 23、焚き火の夜

そうやって一ヶ月が過ぎた夜のこと。
「ヨナキネコちゃんの両親なかなか見つからないね」
キーゴは暗闇に赤々と光る焚き火に目を落としながら言った。
「メェ~」
ヨナキネコは葉っぱを巻いた足を引きずりながら、キーゴと足元までやってきて擦りよってきた。
「足も勝手に良くなってきよったしなぁ。これからどうするかやなぁ」
「うーん…」
ジヴの考えでは、もし親たちがこの周辺にはもうおらず、このままヨナキネコの足が良くなってくるようなら、折を見てこの子をそのまま置いていくつもりだった。
このままヨナキネコの親代わりを続けることは出来ないし、バナナを取りに行くために、そろそろ森を出たいと考えていた。
そして、ジヴは今夜キーゴにそのことを伝えようと思っていた。
「あんな…俺、思うんやけど」
「メ〜、ウゥー」
ジヴが話を切り出そうとしたその時。
 ヨナキネコが短く鳴いたかと思うと体をぶるぶるっと震わせ、ジヴが置いておいた荷物の上に大量のおしっこを引っ掛けた。
「うおー!お前なにやっとんねんー!」
 ジヴは慌ててリュックまで駆けよると、ヨナキネコを抱き上げた。
「ちょ、おま、その中にバナナの地図入ってんねんで!」
「あー、えーと。これだね。あー、びっちゃびっちゃだね〜」
 キーゴがリュックを開けて、中を確認すると、地図の半分以上がふやけてインクがにじみ、ほとんど読めなくなっていた。
 もともとばらばらだったものをジヴが糊付けしてなんとか形になっていたものが、早くも破れそうになっていた。
「あーあー!お前どうしてくれんねん!なぁ、どうしてくれんねん」
 ジヴは怒ってヨナキネコの体を揺さぶった。
「べぇー!べぇー!べぇー!」
 ヨナキネコは揺さぶられるのを嫌がり、ひときわ大きな声で鳴いた。
「ちょっと、ジヴ。やめてよ、かわいそうだよ!」
 キーゴは必死になって止めたが、ジヴは頭に血が上っているようだった。
「ちょっとゆすってるだけや。それにそれ読めなくってしもうたらこれから地図なしで進むことになるんやで!?」
と言って、なおもヨナキネコを揺さぶり続けた。
「べぇー!べぇー!キィーーーーヒヒヒーーン!」
 あんまりにも揺さぶられるのが嫌だったのか、ついにヨナキネコが今まで聞いたこともないような悲鳴を上げた。すると、
「ヴェーー・・・」
「メェーー・・・」
 どこからか怒ったツノオレヤギのような声が聞こえてきた。
「お、こいつ怒ったんか。お前が怒っても全然怖くなんかあらへんわ。もっとゆすったろか?」
「ねぇ、ジヴ…」
「怒ったところで地図はもとに戻らへんねん。どう落とし前つけて…」
「じゃなくてジヴ…」
「ああ?なんやねん」
 ジヴはそのとき初めてキーゴの方に向き直った。
「多分、今の声はあの二頭からだと思うよ」
「へ?」
「ヴゥーーーーー」
「メェエエエエエ…」
 見れば焚き火の向こう側、ほの暗い明かりがちらちらと届く程度のところに、暗闇にも黒光りしそうなほど毛並みのいい、大きなヨナキネコ二頭がうなり声を上げていた。
 一頭は体長150センチほど、後ろに控えているもう一頭はそれより一回り小柄に見えた。
 二頭とも同じように殺気立ち、ジヴに牙を向けている。
「ねぇ、あれって、このヨナキネコのお父さんとお母さんかな!?」
「ああ…多分、そうやろな」
 ジヴは横に視線をそらして口元だけ笑顔を作ると、一瞬でヨナキネコを足元に置き、嬉しそうに笑顔を見せているキーゴとリュックと地図を鷲掴みにして走り出した。
「えー!?なんで?ジヴ、ネコちゃんのご両親にご挨拶しないの!?」
 まるで荷物のように抱えられたキーゴが不思議そうに叫んだ。
「あほ!明らかに悠長に挨拶なんかしてる場合ちゃうかったやろが!そのままおったら俺ら襲われるわ!」
「でも、じゃあ、ネコちゃんとはもうこれでさよならなの?」
「ああ、それはしゃーないわ。どの道、そろそろこの森抜けなあかんからな」
「そっか。寂しくなるね」
「俺はせいせいするわ」
 そう言いながらジヴは、ヨナキネコの両親が見つかって内心少しホッとしていた。
 月と星とが光る中、ジヴは足を緩めずに走り続けた。
「バイバーイ!!ネコちゃーーーん!!元気でね〜!」
 キーゴはジヴに抱えられながら、あらん限りの大声で叫んだ。
「メェ〜…」
 ジヴには最後、名残を惜しむかのようなヨナキネコの声が聞こえた気がしたが、それは定かではなかった。

  24、星の砂の砂漠

 ヨナキネコと別れた次の朝、森から一歩外へ踏み出そうとしたジヴとキーゴは、目の前の光景に圧倒された。
「うっわぁ、広いね〜」
「これは…俺は夢見てるんちゃうんか?」
 二人は思わず呟いた。そこには広大な砂漠が広がっていたのだ。
奇妙なことにここの砂はよく見るとそのすべてが星の形をしていた。
「素敵!星の砂だー!」
「ほんま、おもろい形してんな」
 ジヴは感心したように、砂をすくって眺めた。
「ね、ジヴ。僕この砂取っておきたいな」
 キーゴが目を輝かせながら言った。
「はぁ?砂なんかいらへんやん。取っといてどないすんねん」
「いいでしょ。少しだけ。記念だよ〜」
「記念ってなんのや?」
「『森から出て砂漠を初めて見た記念』だよ〜!ねー、いいでしょー?」
「しゃーないなぁ」
 キーゴがあまりにねだるので、ジヴはリュックに入っていた空の薬壷の中に、一握りの星の砂を入れた。
「わーい!お母さんにお土産ができた!」
「お前のおかん、こんなんで喜ぶんかいな」
 ジヴはぶつくさ言いながらも、中身がこぼれないよう、ふたを閉め、再びリュックの中に戻した。
 二人が森との境界線から一歩踏み出すと、足の裏に感じる砂は太陽の熱を吸収し、かなりの熱を帯びていた。
「うわっち!これからここ歩いてかなあかんのか」