目的地にて
「で、あるとき、俺の心の中で、俺がずっと前に演じた『あいつ』が、話しかけてきたんです」
ヤスキは尋ねた。
「あいつって、桔梗輝二?」
桔梗輝二というのは、先ほどヤスキが言及した特撮番組でのコウジの役名である。
「そう、そいつです。そのときの言葉、今でもはっきり覚えてます」
「何て言ったの?」
ナツハも、興味津々な顔で彼を見つめている。彼は深呼吸すると、話し出した。
「『おまえ、そのまま泣き続けるつもりなのか。泣いたからって、道が動く歩道になって目的地へ連れていってくれると思うのか』」
彼の口ぶりを聞いたとき、ヤスキは自分の目の前にあのクールな桔梗輝二が戻ってきたと感じ、静かに興奮した。
「そのとき、俺は電撃剣か何かで胸を貫かれた感じがしました。それで、答えました。『いや、そんなの起こるわけない』って」
今度はナツハが彼の話に乗ってきた。
「自分自身が演じたキャラクターに、助けられたのね」
彼は一度うなずいた。
「それで、そいつはまた言いました。『おまえはもう、もといた場所には戻れない。だから『目的地』に向かって進むしかない』」
(あいつならそう言いそうだ)
ヤスキは、心の中で言った。