目的地にて
エピローグ~そして、つつまれる
ナツハはコウジの名前を呼んだ。彼が彼女のほうに体を向けると、彼女は少年をいとおしげに抱きしめた。
「ナ、ナツハさん…」
彼女はいとおしさを増すように両目を閉じた。ヤスキも気持ちを抑えきれず、適切な位置に移動して2人の肩を抱いた。
そのまましばらく時間が静止したように感じられた。
やがて、コウジが2人の顔を見ながら言った。
「俺は…俺はもう1人じゃない」
彼の目には、1人の女性と1人の男性が映っている。
「ナツハさんに会えてうれしい!ヤスキさんに会えてうれしい!ここに来れてうれしい!」
そんな彼に、ナツハも言った。
「私も同じよ。それにね、私たちみんなの目的地は同じなの。だから、いつか時が来れば、あなたが共演した仲間たちにもまた会えるわ」
「…そうですね」
すると、ヤスキが軽く笑って言った。
「そのときは、また5人であの決めぜりふ言ってね」
コウジは照れ臭そうに笑うと、答えた。
「はい」
ヒロタナツハ、サカイヤスキ、カミヤコウジ。彼らは、もともと何の縁もゆかりもない者たちである。しかし今、この地にいる彼らは一つの家族のように見える。
― 春よりも春を感じる空気が彼らを、そしてこの地全体を包んでいた。