目的地にて
ここに来るまで
数十秒後、今度はヤスキがコウジに話しかけた。
「ところでさ、コウジくん」
「何すか」
「君、この地に来るまでどれくらいかかった?」
ヤスキの質問に、コウジの表情が僅かに曇った。
「あっと…何日、いや何十日だったかな…」
彼のせりふを聞いたとき、ヤスキの脳内にあの日々のことがフラッシュバックした。ナツハも、彼に憐憫の眼差しを向けた。
コウジは、視線を宙に向けた。
「何か、めちゃくちゃ長い道のりだったことは覚えてるんすよ」
ヤスキは、彼の努力を労うような顔で言った。
「すごくコンディションの悪い道だったよね?」
「はい、まあ…。普通なら、途中で嫌になって引き返したくなりますよ」
コウジは、一度ため息をついた。
「俺が歩いた道は、道は曲がりくねってるし、周りは荒地だし、風は強いし、俺1人だし…」
ナツハは、彼と距離を詰めた。
「誰か来るんじゃないかと思って、俺は何回も振り返った。でも、誰も来なかった」
次第に共感を強めたヤスキは、ついにコウジのそばにしゃがんだ。
「君の気持ち、すんごくよくわかる」
(ヤスキさん……)
コウジは、ヤスキのほうを見た。
見つめられたヤスキは、慰めるような顔で一度うなずいた。コウジもほほ笑みを返すと、話を続けた。
「歩いてるうちに、家族に、芸能仲間に会いたくなって、俺、柄にもなく立ち止まってボロ泣きしました」
発言の終わり際に、彼は苦笑いした。