からっ風と、繭の郷の子守唄 第26話~30話
からっ風と、繭の郷の子守唄(28)
「二人の思いは空回りをしたまま、上電はひたすら東へと走る」
「たしかに、こんな夜更けに15分も山道を歩くのは物騒だ。
住人はほとんど寝静まっているし、最近は、危険な動物が出没しているという」
前方を見つめている美和子の背中へ、康平が近づく。
警報器が鳴る無人の踏切を越えると、レールが緩やかに右へ湾曲する。
美和子が降りるはずの「北原」の無人駅が、闇の中から浮かび上がって来る。
「危険な動物って、まさか、クマとかイノシシが出没するとか・・・・」
「赤城の山奥ではあるまいし、クマはやイノシイは出てこない。
保護政策をとってきたため、いつのまにか個体数が増えたシカだ。
ハンターたちも高齢化したから、駆除が追いつかない有様だ。
山の中にあふれたシカたちが餌を求めて、民家の近くまで降りてくる。
かれらは夜行性だ。
深夜になると畑の野菜を狙って、このあたりの山道を歩き回る」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 第26話~30話 作家名:落合順平