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からっ風と、繭の郷の子守唄 第26話~30話

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 「鋭どいなぁ君は・・・・油断も隙もないな。
 推察のとおり確かにいました、少し前まで。ちょっとだけ好きだった女の子が」

 「中途半端な表現ですねぇ。だったと言うのは過去形です。
 どうしました。振られたの?それとも、逃げられてしまったのですか?」

 「いまだに居るよ、その店に。
 彼女は実は、人妻だった。
 それでも好きだと、いつかは打ち明けようと密かに心に決めていたけど、
 ママに見破られて、きつく釘をさされた。
 あんたも同じ水商売の人間なら、人の道を外れた告白はあきらめなさい。
 と、懇切丁寧に諭された。
 実にあっけなく、好きだという気持ちを消されちまった」

 「初耳です。へぇぇ、あなたにも居たのねぇ。
 心をときめかせてくれる女性が、あたし以外にも。
 だいじょうぶなの、そんなところへまた、顔を出しても?
 もしかして未練がましく、いまでもせっせと通っているんじゃないでしょうね」

 「バカ言え。もうさっぱり、その事は忘れた。
 ママの気風に惚れて、顔を出しているという感じかな」

 「なんというお店?」

 「スナック”辻(つじ)”。ママもとびっきりの美人だよ」

 (ふ~ぅん。行き会うのが楽しみです)、と美和子がひそかに笑う。


 運動公園の北を走っている国道122号線は、栃木県の日光市から
群馬県と埼玉県を経由し、東京都豊島区まで続いていく一般国道。
ほとんどの道路が、都内にある日本橋を起点にしている。
そこから地方へ下る形を採用しているが、ごくまれに例外が有る。
国道122号線も、そのひとつだ。

 日光東照宮の直下にある重要文化財の朱塗り橋、『神橋』を起点に、
都内の西巣鴨交差点が終点になっている。
この国道は、かつては銅(あかがね)街道と呼ばれていた。
足尾銅山から、精錬された銅を輸送する道として繁栄を極めた。
朝廷からの勅使が、徳川家康が祀られている日光東照宮を訪ねるために、毎年、中山道を経由して
この国道122号線を北上したことでもよく知られている。

 桐生球場前駅から歩き始めて5分あまり。
二人がたどり着いたテナントでは、深夜の12時になろうというのに、
駐車場を20台以上の乗用車が埋め尽くしている。
駐車場を取り囲むように建てられている店舗は、どこをみても客が溢れている。
賑やかな話し声が、あちこちからこぼれてくる。
 
 「なんなの・・・いったいここは。
 市内の繁華街とはまた別の、独特の雰囲気が漂っていますねぇ。
 どこのお店も賑やかすぎては、これでは隠れ家などと呼べません。
 一体ここは、どういうところなの?康平」

 「市内の飲食店は、深夜12時になるとその日の営業を終わる。
 ここへ集まってくる人の大半が、飲食店街で働いている女性や、
 その連れのお客さんたちだ。
 ひと仕事を終えた人達が、これから自分のために飲みにやってくるのが、
 この場所というわけだ。
 そう言う意味で言えば、ここに集まって来るのは、俺たちと
 同じ人種ということになる」