からっ風と、繭の郷の子守唄 第26話~30話
駅からはじまる通りは、桜並木でおおわれている。
桜の季節になると、多くの人々が満開の桜を求めて、ここを訪れる。
運動公園の北を走る国道122号線のすぐ裏手に、銅山の町だった足尾まで行く
JRわたらせ渓谷鉄道が走っている。
「真新しい自販機が、ホームにいくつも並んでいますねぇ。
自販機にスポーツ飲料がこれほどたくさんあるのも、
運動公園駅ならのようです。
駅前は桜の並木道ですか・・・・春になったら、また来たいですねぇ」
運動公園を横切っていく通りへ出た美和子が、暗い桜の並木を見上げる。
整備された歩道の先に、ぼんやりと夜間照明に照らし出された
テニスコートが見える。
秋の高校野球でメイン会場として使われる、桐生球場の観客席が
高々と夜空に向かって浮かび上がる。
11時半を過ぎたというのに、公園を周回するジョギングコースの上に、
汗を流して駆けぬけていくランナーの姿が見える。
「ねぇ康平。これから私たちはどこへ行くの?
ジョギングや、深夜に野球をするわけではないでしょうね。
あたし、もう運動なんか出来ません。
筋肉がいつのまにか、脂肪に変わってしまいました」
「そうない? 高校時代と同じような体型に見えるけど・・・・」
「恥ずかしいわ。そんなにジロジロ見られたら。
女を見るときはさりげなく、盗み見しながら確認してちょうだい。
気にしているのよ最近は。とくにこのあたりが、肥ってしまいました・・・・」
自らの腹部を指差した美和子が、あっと大きな声を出す。
「こら、康平。なんということを言わせるの!。
深夜だというのに・・・・色気もなければ、恥じらいも足りませんねぇ。
で、どこへ向かうのかしら。あたしたちは」
「運動公園を抜けると、国道122線へ出る。
そこを左へ曲がり、3分ほど歩くと深夜から未明にかけて人が
集まるテナントがある。
その中に、面識のあるママさんがいる。
朝の4時くらいまで営業しているから、漫画喫茶やネットカフェよりは、
居心地がいいと思う」
「ふぅん。康平にも、ふらりと行く隠れ家のようなお店が有ったんだ。
どんなふうに過ごしているの、そのお店で。
男がひとりで寂しく飲みに行っているなんて、野暮なことは言わせません。
居るんでしょ。お目当ての女の子が」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 第26話~30話 作家名:落合順平