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そして河童は川へ還らず

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 長老の巳之助がゆっくりと立ち上がった。
「河童は『シリコダマ』を抜いてなんぼのもんじゃ。それを人間と合い惚れになるとは言語道断。三郎には最も重い罰を与える!」
 巳之助の杖が水を一掻きした。三郎は目の前がグルグルと回った。それからしばらく、三郎の記憶は途絶えることとなる。

 よねは河原に立っていた。いつも三郎を待っていた家の前の河原である。
「おーい! よねーっ!」
 遠くからよねを呼ぶ声がした。それは確かに人間だった。だが、その顔には河童の三郎の面影がある。
「三郎……?」
 三郎と思しき人影はよねに駆け寄った。
「そうだ、三郎だ。おら、河童の一番重い罰を受けて人間にされただ」
「三郎、好き!」
 よねが三郎に抱きついた。三郎もよねをしっかりと抱きしめる。二人は見詰め合った。よねの瞳は今日も無垢な輝きを湛え、澄んでいた。
「もう、おらたちの邪魔をするもんはおらん。おら、よねの婿さなりてえだ」
「おとうもおかあも稲刈りだ」
 二人は田圃に向かって歩き始めた。
「もう、おらたち上流(かみ)には行けねえだ。河童に『シリコダマ』を抜かれるでよ」
「あはははは……」
 よねの明るい笑い声が響いた。

(了)