からっ風と、繭の郷の子守唄 第21話~25話
からっ風と、繭の郷の子守唄(22)
「生き字引と呼ばれている由多加のママと、店名の由来」
「何でもあたしに聞いて頂戴よ~。生まれてこのかた、早、70年。
呑竜マーケットで酔っぱらいどもを見つめながら、
なんだかんだでもう半世紀。
あんたのパパが、工業高校へ通っている15~6の頃から良く知ってるさ。
何かあったら言いなさい。
可愛いい貞ちゃんをいじめるなって、たっぷりお説教してあげるから」
「スナック由多加」は、呑竜マーケット通りの中央に位置している。
カウンターに5~6人。テーブルがひとつだけ置いてある。
そこへ4人も座れば満席になってしまう、きわめて狭いお店の造りだ。
もっとも呑竜マーケット内にある店はどれも、似たかよったかの
同じ大きさになる。
70歳を超えたというのに、由多加のママはいまだに美人だ。
スレンダー美人という言葉がまさにぴったりとくる。
茶色に染めたボブカットの後ろ姿からは、今年で満71歳になる年齢を、
まったく、微塵も感じさせない。
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 第21話~25話 作家名:落合順平