からっ風と、繭の郷の子守唄 第21話~25話
「え、なに、なんの話?、貞ちゃん。それって一体どういう意味なの?・・・・
私には何が何だか、さっぱりわけがわかりませんが」
「いいの、いいの。美和ちゃんには意味がわからなくても。
話が見えないほうが幸せです。
意味がわかってしまうと、後できっと大変なことになってしまいます。
物分りの良い大人らしく、黙って聞き流して下さい。
酔っぱらいの戯言だと思って、笑って聞いてくれればそれでいいの。
そのとてもチャーミングな笑顔で受け止めてね、うっふっふ。
じゃね、康平。またあとでね!」
ぴしゃりとガラス戸を締め切った貞園が、美和子の背後へ
嬉しそうに手を回す。
2人並んで、「スナック由多加」へ歩き始めます。
「貞ちゃんったら。・・・だいぶ、酔っていますねぇ、今日は」
「私にも、死ぬほど呑んで、酔いたい時があります。
人様に、弱音を吐くわけにいきません。
愚痴なんかこぼすのは、もってのほかです。
それが愛人暮らしの定めなの。
積もり積もった鬱憤は、ダンプカーに積みきれないほどの量になるわ。
ウジウジと康平にからんで、発散することくらいしか出来ないのよ。
切ないのよねぇ。
・・・・でも、珍しいわねぇ。
飲んべぇでもないあなたが、自分から飲みたい気分がするなんて。
なんか有ったの? 飲みたくなるような出来事が・・・・」
「県内にある盛り場を、浮き草のように流している歌手なのよ、私って。
人生の浮き沈みや、ドロドロした男女のしがらみまで毎晩、
嫌というほど目撃するの。
それでもなんにも気がつかないふりをして、自分の歌を歌い続けるの。
わたしだって泣きたいときや、切ない時はあります。
たまには心底飲んで酔いたい時も、一年に一度くらいはやってきます」
「ふぅ~ん。それってきわめて危険な兆候ですねぇ、美和ちゃん。
そうやって飲み始めたお酒が、一杯が二杯になり、やがて三杯になる。
そのうちトコトン呑んで、トコトン酔っ払ってみたくなる。
そうなると、気が付いたら、救いようの無い酔っ払いになっている。
へぇぇ、・・・・やっぱり何か有ったんでしょう、あなたの身に」
「素面(しらふ)で、言いにくいことも沢山あります。
酔っ払ったら、そのうちに説明します。
スナック・由多加で待っててね。
楽曲を置いたら、すぐに駆けつけます。
たっぷりと飲みましょう、久しぶりだもの。酔っ払った貞ちゃんと」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 第21話~25話 作家名:落合順平