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からっ風と、繭の郷の子守唄 第21話~25話

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 大火であっというまに消失してしまった呑竜マーケットは、
きわめて多難な再建の道を歩きはじめる。
県庁所在地でもある前橋市のど真ん中。その中心部に位置しているため、
呑竜マーケットの再建計画は、市によって拒絶されてしまう。
地主の大蓮寺も駐車場用地を確保したいため、更新手続きを渋る。


 失火からわずか一年後、困難を乗り切った末、呑竜マーケットが再建される。
奇跡的な再出発の道を可能にしたのは、当時の経営者たちの懸命な頑張りと、
呑竜マーケットを支えてきた周囲の人々の支援があったからだ。

 呑竜マーケットの正式名称は、「呑竜仲店協同組合」だ。
代表は「スナック由多加」のママで、50年以上もここで頑張っている
洋子さん(71)で、この店のいまは亡きマスターこそが、
呑竜の復興運動を成し遂げた立役者だ。

 こうした歴史から垣間見える様に、飲んべェが集まる呑竜マーケットは、
実にユニークで、独創的な雰囲気を多分に持っている。
グラフイックデザインを得意とする店長が、昼間から店を開けている
『五木カフェ』。音楽を愛好する若手や自称ミュージシャンたちが、
夜な夜な屯する『水連』などは、まさに、そうした象徴と言える。

 のれんを持って表に出た貞園が、バッタリと遭遇をしてしまったのは、
県内の盛り場を流して歩く、演歌歌手の美和子だ。
彼女も『水連』へ顔を出す常連客の一人だ。
唄も上手だが、彼女は作詞が本職だ。
最近、プロの作詞家集団として知られる日本作詞家協会の正式会員として、
地方在住のまま、初めて認定された実力者でもある。
『水連』へ顔を出すのは、古くから交流のある仲間たちへ、
楽曲を提供するためだ。


 「あらぁ。美和ちゃん。いまから水連へ顔出し?
 わがままな康平を面倒見るのは、もう、すっかりあきました。
 あたしも、美和ちゃんの歌を聞きに行こうかしら」


 「今日は、頼まれていた楽曲を置いてくるだけなの。
 その後、「スナック由多加」のママさんのお誕生日会へお呼ばれしています。
 1~2曲をお祝い代わりに歌ったら、すぐに戻ってくる予定です。
 でも貞ちゃんが付き合ってくれるなら、長居をしたくなりました。
 ほんとはね。なんだか今夜は飲みたい気分なの・・・・
 じゃ、付き合ってくれる?」


 「珍しいわね、美和ちゃんから誘ってくれるなんて!
 行こう行こう。こんなクソ面白くもない料理人なんか放っておいて、
 由多加ママさんの所で、大いにはしゃぎましょう。
 康平。そういうことだから、いまから2人でお出かけしてきます。
 なによあんた。不服そうなその顔は・・・・
 心配しなくても大丈夫。ちゃんと戻ってきますから安心して頂戴。
 惚れこんでいる美和ちゃんを、取り上げてしまうほど
 あたしも野暮じゃありません。
 人の恋路を邪魔したら、馬に蹴られて死んでしまうもの・・・・うっふふ。
 そこまでわたしだって、鈍感じゃありません。」