からっ風と、繭の郷の子守唄 第21話~25話
「あんときは、俺も驚いた。
東京へ行ったと聞いていたが、群馬へ帰っていたとは知らなかった。
流しの演歌歌手として、突然の俺の目の前へ現れたんだ。
別人かと思ったけど、やっぱりよく見たら、俺の知っている美和子だった。
いやいや俺もあん時は、正直、腰が抜けるほど驚いた・・・・」
「ふふふ。嘘おっしゃい。
水車のマスターから、名前を明かされて、やっと私と気がついたくせに。
私は最初から、あなただとちゃんと気がついていました。
正直に言うとあなたのお友達の五六君から、あなたが呑竜マーケットで
お店を出していることを教えてもらいました。
でももうその時は、あたしは人妻だったの。
いまだに独り身でいるあなたの前へ顔を出すには、
さすがに抵抗がありました。
それを、橋渡ししてくれたのが・・・・」
「貞園だろう。
俺の初恋の相手だということを、生き字引のゆかりママから
仕入れてきたんだ。
あいつ。よせばよかったのにと、酔っ払うたびに愚痴をこぼすくせに、
あの時は得意満面で、君をこの店に引っ張ってきた。
君は予想以上に綺麗になりすぎていた・・・・
だから気がつかなかったのさ。初恋の君だったとはね」
「綺麗になった?、ただ、お化粧が上手になっただけでしょう。
でもね。あれから7~8年も経てば、女は変わります。
私は、あなたが想定をしている以上に、変ってしまったと思っています。
だからあなたは、あたしに気がつかなかったのよ。
悪い女に変わりすぎてしまったため、あなたはわたしと気付かなかったのよ」
「そんなことはない・・・・君の黒髪も、前髪は、昔のままじゃないか」
「黒髪と前髪が昔と同じ?
ああ、これ。そうね、高校時代のままですねぇ。言われてみれば・・・・
上げちゃおうかなと思うんだけど、なかなかねぇ、
今でも躊躇ったままなのよ。
やっぱりこの髪型のままじゃ変かしら?」
「変じゃないさ。でもなんで躊躇っているんだい?」
「うふふ。黒髪を染めて、前髪をあげてしまうと変りすぎてしまって、
あなたに見つけてもらえないでしょう?
これ以上、あたしが悪い女に変わりすぎてしまったら。なおさらでしょ、
うふっ」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 第21話~25話 作家名:落合順平