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からっ風と、繭の郷の子守唄 第21話~25話

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からっ風と、繭の郷の子守唄(24) 
「それから2時間あまりが経過をして、ふたたび康平の店」

 それから、2時間あまり。
スナック由多加では、3度にわたる乾杯の大合唱が巻き起こる。
戦友たちによるカラ騒ぎもようやく収まり、大盛況のうち、ようやく
散会へたどり着く。
「また、来いよな。台湾の別嬪さん!」酔っぱらいのおじさんに送られて、
貞園と美和子が表に出る。時刻はすでに、11時を回っている。


 「楽しい時間は、あっというまに過ぎるわね」
美和子が康平の店へ着いた時、すでにのれんは中に隠れている。
消し残した入口の赤提灯が、すこし寂しそうに、ぽつんと風に揺れている。
「あら・・・・待ちくたびれて、閉めちゃったのかしら・・・」
カラリと開けたガラス戸の先、カウンターの上に、美和子がいつも
絶賛する大好物、鱚[きす]と初夏の野菜の酢の物が、
二つポツンと置いてある。



 鱚は、きわめて淡白な魚で、初夏を代表する魚のひとつ。
天ぷらなどで馴染みがあるが、メニュー的に、あまり種類は多くない。
康平が作る酢の物には、独自の工夫がほどこされている。
丁寧に鱚の下拵えを終えた後、軽く塩を振る。
時間をかけて水分を充分に抜いたあと、きゅうりと針に切った生姜、大葉、
みょうがも添えて、甘酢仕立てに味を整える。
隠し味として三陸の若芽(わかめ)を馴染ませておく。