意味を持たない言葉たちを繋ぎ止めるための掌編
言葉によって私たちの感情は置き換えられる。だが、それはあまりにも不完全で、未熟だ。
「私は〈心のなかにあるふわふわしたもの〉をしっかりとした形でこの世界に表現してみたいの」と芸術家の娘は言った。
「君の言う〈心のなかにあるふわふわしたもの〉とはいったい何だろうか?」と博士は娘に質問した。
「心の奥底に確かに存在する独自の心象風景」と娘は答えた。
「ふむ。それでは、君は君の心のなかに確かに存在する形をもたない心象風景をどのように形象化するのかな?」と博士は娘に訊ねた。
「ことば」と娘は答えた。
「それは難しい」と博士は言った。「言語化された心象風景はもはや君のもとを離れているからね。もはや“君のものではないのだ”」
作品名:意味を持たない言葉たちを繋ぎ止めるための掌編 作家名:篠谷未義