意味を持たない言葉たちを繋ぎ止めるための掌編
気の毒なリストウォッチと、人間らしさ=不完全であることの証明
私は、『人間らしさ』とは『不完全であること』、
という一つの仮説を立てた。
だとすれば、
不完全な機械に人間らしさが宿るか、
という素朴な疑問が生じる。
私が街に出掛ける時に
必ず身に付けるロシア製リストウォッチは、
一日ごとに五分、時間が狂う。
故に、
私は毎日決まった時間に
その失われた五分間を
修正しなくてはならない。
完全であることを本質とする機械として
生まれてきたにも関わらず、
不完全なものとして存在している、
その時計のことを私はひどく憐れに思った。
まさに、
その瞬間である。
私はその時計に、
人間らしさ、
というものを感じた。
『不完全な人間に所有される不完全な機械』
なんとも人間らしい。
なんとも憐れで、
それでいて、
愛おしい存在だろう。
作品名:意味を持たない言葉たちを繋ぎ止めるための掌編 作家名:篠谷未義