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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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純愛

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紅少女


寒い冬から解放されて、庭の木や花が芽吹いて来る。そのなかに紅少女と言う紅葉が1本ある。その葉は初めからえんじ色をしている。それから少しづつ透き通った赤になる。夏には青くなりまた秋に赤くなる。
 竹森昇はその紅葉がとても好きである。それにはそれなりの訳があってのことである。  大学時代に交際し、出来ることなら結婚をしたいと考えていた大塚弘子の庭に植えられていた紅葉であった。3年ほど交際しながらくちづけはしたものの、身体に触れた事はなかった。昭和40年初めのころである。まだ嫁に貰うなら処女の娘をと言う頃である。
 昇もその事が頭に有った。もし肉体関係を結んでしまったら責任を取らなくてはならない。もちろんその事は昇は願っている事であった。しかし身分が違い過ぎていた。弘子の家は開業医で有る。昇の家は小さな米屋で有った。だから弘子が自分の家に招待してくれたのに、昇は弘子を自分の両親に紹介することが出来なかった。
 大学を卒業すると、N自動車に就職した昇は東京を離れた。赴任先は博多であった。弘子は東京のM商社に勤めていた。結婚の約束をした訳でもない2人の関係は少しづつ離れて行った。
 いつしか電話も途絶え、1年に1度の年賀状だけになっていた。
 昇は仕事を覚えることを優先していた。エンジンの設計は排ガス規制で大きく変わろうとしていた。他社より少しでも先に開発しなければならない。そのプロジェクトに参加できたことが昇にとっては夢のようであったのだ。 
 27歳になった弘子は見合いで医師の相手と結婚した。そのことを年賀状で昇に報告して、一切の関係を絶った。
 それから40年の歳月が流れた。竹森昇は今は1人暮らしである。35歳で結婚し、3人の子に恵まれ、子たちは結婚し家を離れた。そして1年前に妻を亡くした。
 本当に孤独は淋しいものである。仕事に没頭していたことが懐かしく思い出された。何でもいいからこの孤独感から解放されたいと昇は思った。
作品名:純愛 作家名:吉葉ひろし