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からっ風と、繭の郷の子守唄 第16話~20話

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 「出来たよ」と、貞園の前へ野菜の小鉢が置かれる。
ナスをたっぷりの油で炒めたあと、昆布とかつおで摂った出汁汁で
15分ほど煮て、冷蔵庫で30分ほど冷やすと夏にピッタリの
「茄子の煮浸し」が完成する。
赤城山のツーリングから戻ってきた直後。
康平が貞園のために作った最初の料理が、この「茄子の煮浸し」だ。

 「4月に入ったばかりだというのに、もう茄子が登場するの?
 10年も経つと野菜の旬まで、なんだかあやふやになってしまいますね。
 そういえば、どうしているんでしょう。
 あなたの同級生の五六ちゃんのところの、あの双子の姉妹は」


 「この春からめでたく美人の双子も、中学生になった。
 その茄子も、五六がビニールハウスで育てたものだ。
 初物を、わざわざ届けてくれた。
 路地で育てる野菜の数は、昔から見れば格段に減った。
 その代わりハウス物が、早い時期から、市場に出回るようになった。
 10年も経てば時代が変わる。
 野菜を取り巻く環境も、速いテンポで変わるのさ」


 「人も、変わるのよねぇ。
 いつの間に、気が付いたら愛人暮らしだもの・・・・
 私はこのまま、どこまで変わっていくんだろう。
 10年前に想像できなかった自分が、確かな現実として存在して居るもの」


 康平が、腰に手を置いたまま貞園を見つめる。
眼差しを感じた貞園が、頬肘をついたまま、目だけを康平へ向け直す。


 「君はなにひとつ、変わってはいないさ。
 まっすぐ人を見つめる、君の眼差しは昔のままだ。
 思ったことをすぐ口にしてしまう、開けっ放しの性格はあの頃のままだ。
 ただひとつ、変わってしまった事実を除けば、ねっ・・・・」


 
 (ただひとつ、変わってしまった事実が有る?・・・・
なんなの、それって一体)貞園の挑むような目が、煮物を始めた康平の
背中を鋭く見つめる。
落し蓋を手にした康平が、ガスを再点火させる。
慎重にガスの火を、米粒の大きさまで落としていく。
実が柔らかく煮崩れしやすい根菜類へ、旨みをしっかり含ませるため、
「いじめ煮」と呼ばれている、古くからの調理方法をとる。