からっ風と、繭の郷の子守唄 第16話~20話
からっ風と、繭の郷の子守唄(20)
「前橋市における戦災の記録と、貞園の永遠の恋のライバル登場」
5月半ばをすぎると、日暮れにたっぷりと時間がかかるようになる。
呑龍マーケットに夕暮れが近づいても、まだ多くの店が仕込みに追われている。
ついこの間まで、赤城山から吹き降ろす冷たい季節風に首をすくめて
歩いていた人達が、マフラーを外し、上着を一枚脱ぐようになる。
そうなると、いつものように呑みに出かけてくる時間までが、
遅い時間へ後退していく。
康平の店で、春色のゴルフウエアに身を包んだ貞園が、いつものように、
焼酎グラスの氷を指で掻きまわしている。
カウンターで、不機嫌そうに頬杖をついているのもいつものことだ。
丹念に化粧が施されている横顔に、いつも以上の不機嫌が漂っている。
ほほ笑んでいる時の貞園も可愛いが、こうして拗ねている時の貞園にも、
男を惹きつけるような、不思議な色香が発散する。
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 第16話~20話 作家名:落合順平