からっ風と、繭の郷の子守唄 第16話~20話
からっ風と、繭の郷の子守唄(19)
「まだあげ初めし黒髪と、ひたいへのキス」
「あっ、」貞園が突然に小さな声をあげる。
はるか過去の康平とのキスの場面を、突然、思い出した。
(うっかりしていました・・・・そうだ。たった一度、私たちも
キスをしたんだ)
「なんだ、藪から棒に。
なにを赤くなってんだお前。もう呑み過ぎちまったのか、もしかして?」
「酔ってなんかいません、私は。
突然だけど、たったいま、あなたとのキスシーンを思い出したのよ。
あれは、真冬の赤城の山頂だったと思います。。
雪を見たことがない私のために、あなたの運転する車で赤城へ
行ったことがあるわよねぇ。
凍てついた大沼の湖畔で、ヤドリギをいくつも見つけて大騒ぎをしたわ。。
きっといい事が沢山あるって有頂天になって喜んでいる私へ、あの時、
康平が額へキスしてくれたのよ。
でもさぁ。いまでも不思議なんだけど、なんで唇を避けて額なのよ」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 第16話~20話 作家名:落合順平