灰と真珠
ピュアな魂
何と不思議なことに、この女性の声は、火と硫黄に満ちた場所で苦しんでいるあの男の耳と心にも聞こえたのです。その瞬間、男は体をびくっと動かし、程なく震えました。震えながら、男は心の中で言いました。
(あの女は、自分をだまして殺した俺を今も愛し、俺の罪が許されることさえ祈っている…。その境地は何だ…。どこから来るんだ……)
男の持つあの女性へのイメージは、嫌らしい、気持ち悪い女性ではなく、気高い魂を持つ女性に変わりました。男の目が潤んでいたのは、火と煙が目に染みたからだけではありませんでした。
(殺人の罪なんか、とても許されるもんじゃないと思ってた。でも、俺をここまで愛し抜く人が、現実にいる…。もし…もし願いが一つだけかなうなら、あの人のもとに行って、固く抱きしめて俺の気持ちのすべてを示したい……!)
そのとき、さらに驚くべきことが起こりました。その男の目線の先に、一本のトンネルのような空間が見えたのです。彼は、周りを二度、三度見わたすと、そこへ向かって一直線に走りました。
(ここにいる皆さん、俺だけ逃げてごめん……!)
と思いながら。幸か不幸か、その場所にいた他の人々も、彼をここに連れてきた恐ろしい悪霊も、男が逃走したことに気付きませんでした。