カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅰ
美紗は目を輝かせた。隣に座る松永がつられて嬉しそうな顔になるのをちらりと見た日垣は、急に柔和な笑顔を消し、
「もちろん、上司の推薦を受けられるだけの結果を出すのが先だ」
と、厳しい口調で付け加えた。切れ長の目で見据えられ、美紗は心細そうにまた下を向いた。松永が慌てて美紗を励ました。
「大丈夫だ。あなたは筋は悪くなさそうだし、仕事のやり方はきちんと指導するから」
美紗はわずかに涙目になりながら、「ありがとうございます」と頭を下げた。
「では決まりだ。明日から鈴置さんには私の直轄チームに入ってもらう。人事的な話はこちらで処理しておくから、彼女が仕事に慣れるまでは、松永3佐、サポートよろしく頼むよ」
「自分がですか?」
「鈴置さんを指導するって、さっき言っただろう」
イガグリ頭の3等陸佐は、はあ、と間の抜けた返事をした。将来の航空幕僚長と噂されるこの第1部長が若手に急に手厳しい発言をする時は、必ず何か魂胆があることを思い出した。今回はこの若い女性職員の面倒を見ると自分に言わせたかったらしい、と気が付いたが、もう手遅れのようだった。
作品名:カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅰ 作家名:弦巻 耀