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画-かく-

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 「確かにその通りだな。変な国になったもんだ。一昨日から画の中で寝泊まりしてるけど、確かに安心といえば安心だし、清潔だし、快適といえば快適だ。何の心配もいらない安息の地だ。電車は24時間動いているし、グローバル対応というのかな、24時間都市機能が動き続けている。機能的で効率的だ。でも落ち着かない。人間の匂いがしない。見事に制御され管理された空間だ。仕事で短期間滞在するなら悪いところじゃないが、住むのは御免こうむりたいね。今日、画から外に出て、最初は少し緊張したけど、今は何だか自由で開放された気分だ」
 「そりゃそうだ。でも問題はそうした情緒的なことだけじゃない。本質だ。政治のな」

 「というと?」
 「政治は何処でやってる?勿論中央政府の政治だ」
 「そりゃ、永田町と霞が関だろう」
 「そうだ。画の中だ。画のど真ん中だ。ど真ん中の人間たちが政治をやってる。政治家も役人も。だから画の外のことなんかちっとも分かっちゃいない。分かろうともしない。画という安息の地にこもって、耳ざわりのよい報告や抽象的なデータを眺めて政治ごっこをしているだけだ」
 「そりゃそうだな。旭川はまだましな方だが、地方の実情は惨憺たるものだ。二三日画にいるとそんなこと忘れちゃうけどな。確かに中央政府から完全に見捨てられてる感じがしないでもない。勿論、根性のある一部の地方は逆に中央政府なんて当てにしないで勝手にやってるけどね」
 「何故だか解るか?例えば政治家が画外に視察に行くとするだろう。中央官庁の役人は都合の悪いところは政治家には絶対に見せない。自分たちが考えた政策が誤っているところなんて見せるはずないよな。だから見せるのは自分たちの都合の良い所だけだ。役人たちが描くストーリーに沿って成功している事例を見せる。もし成功している事例がなければその時だけでっち上げる。そして自分たちの都合のいいように現場の人間にしゃべらせる。政治家たちはそれでご満悦だ。自分たちはうまく政治をやっている。この国をうまく運営しているとな。政治家たちは深く追求するようなことはしない。そもそも関心がないからだ。現場で苦労している者たちの大半は票にならないしな」
 「なるほど。じゃ野党はどうなんだ?少数派とはいえ野党だっているじゃないか」
 「野党は当てにならん。彼らも納税額比例のお蔭で富裕層に逆らえなくなった。庶民の味方をしても0.2票か0.4票だ。手っ取り早く票を取るなら富裕層を軽視はできない。結局富裕層を怒らせるようなこと、大企業を怒らせるようなことはしない。だから本質は与党と変わらない」
 「なるほど。じゃマスコミはどうなんだ?まあ最近のマスコミなら期待しても無理か」
 「その通りだ。特に全国ネットのマスコミはひどい。戦前戦中じゃあるまいし、別に言論統制がある訳じゃないんだが、自己規制ってやつでな。下手に社会の暗部に手を突っ込んで、中央政府や大企業に睨まれたくないんだろう。それに東京に住んでる業界人は皆画の中の安息の地に身を置いているから本質は何も見えちゃいない。要するに彼らも支配する者たちの側、富める者たちの側の人間なんだよ」
 「そうかもな」
 「勿論中には気骨のある人物はいるし、俺もそんな連中を何人かは知ってる。でもな、そんな奴らは皆会社からマークされて閑職に追いやられ、結局フリーランサーになるしかない。そうなったら発言する手段はインターネットを使うしかない。大手の出版社や流通業者は中央政府や大企業が怖いからそんな危ない連中とは関わりたがらないからな。で、インターネットなんだが、ネットは中央政府が巧妙にコントロールしている、実に巧妙にな。政府に都合の悪い情報を流したからといって摘発なんて勿論しない。警告もしないし削除要請もしない。ただ情報が何故か広がりにくいだけなんだ」
 「恐ろしくなってきたな。で、これからどうしようというんだい」


5.復活 
 「この国をもとの姿に戻したいんです」木下が口を開いた。
 「11年前私たちは大きなあやまちを犯しました。言うまでもない納税額比例選挙制度の導入と国会の一院化です。勿論私たちは反対した。しかし流れを食い止めることはできなかった。力不足を痛感しました。私は参議にはならず国会を去りました。民主主義の何たるかを忘れた、あのような腐りきった国会に一時でも身を置きたくなかった。金の亡者のような長田君の顔も見たくなかったし」静かな口調だ。しかし木下の眼には決然とした怒りが宿っていた。

 「参議院を復活させるということですか?」
 「いや、参議院を復活させることはできんでしょう。残念ですがこの国の人間は二院制を上手く使いこなせるほど成熟していませんから。二院制を復活させても、またカーボンコピーの二の前でしょう。一院ならなんとかうまく機能させられるでしょう。勿論真っ当な選挙を経た上でのことですがね。一度こんな馬鹿な国にしてしまったんだから、今度こそ頭を冷やして選挙というものをまじめに考えるんじゃないでしょうか。一院なら解りやすいでしょうし」少し表情が明るくなった。
 「ということは納税額比例選挙制度を廃止してもとに戻すということですか?今さらそんなことが可能なんでしょうか?」
 「難しいでしょうがやらなければいけません。このままだとこの国は本当にだめになってしまいます。それでは死んでも死にきれない」悲しげな眼になった。
 「ついでに画というあのグロテスクな代物も無くしてしまう。自分の国を自由に往来できないなんて民主国家って言えるか!」と保坂。
 「その通りだけど、せっかく出来たのに勿体ないな」
 「グリーンベルトのことか?あれは除草剤なんか撒かずにそのまま放っておいたらいずれ自然に帰るさ。鳥も虫もイタチもキツネもいるすばらしい緑の回廊になる。それで充分じゃないか」

 「我々の考えていることが少しは解ってくれたか?」保坂が聞いた。
 「ああ。でもどうしたらいいのかな。何から手を付けたらいいのか。あまりに話が大き過ぎて戸惑うばかりだ」
 「そうだな。こんなこと突然言われて驚かない方がどうかしてる。俺も最初、木下さんから相談されたときは腰を抜かしそうになった。さすがに芳野は大物だ。あまり動じた風でもない」
 「話が突飛すぎて着いて行けないだけだ」
 「俺と木下さんとは百姓仲間でね。百姓に関しては俺の方が先輩だ。木下さんは前から自分の目の黒いうちにこの国を元に戻したい。希代の悪法を一刻も早く葬り去りたいと願ってらしてね。色々と構想を練ってこられた。で、俺もへそ曲がりだから2年くらい前に仲間に取り込まれたという訳だ。表には出ていないが国内に大きなネットワークが出来ている。勿論法に触れるようなことは一切していないし、決して怪しい組織じゃない。ただ、今の政府与党にしてみれば危険極まりない組織であることは間違いないがな」
 「へえ。そんな組織があるとは思いも寄らなかった。勝算はあるのか?」
 「あまり勝ち負けを言うなよ。ただ、我々も思い付きでこんなことをやってる訳じゃない。俺も今でこそ百姓だが元は法学部だ。当然戦略、戦術はある。元役人の芳野にとっちゃあそんなに難しい話じゃない」
 「僕に解るかねえ」

作品名:画-かく- 作家名:芳野 喬