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画-かく-

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 「実際は画内も画外も給与水準は変わりません。むしろ画内の方が少し良いみたいです。でも、画内に住んでいる人たちは給与水準が高いから、格差についつい目がいってしまうんでしょうね。それに、画内で働いている人間の中には、不満があるくせに画内で働いてることを自慢するところがあって。画内に入ったことのない人たちに、画内は豪華な高層ビルが林立してて、高級ブティックが並んでて、公園は綺麗に整備されてて、カフェでお茶してるのは美人ばっかりで、街を歩いている連中は高級スーツを着てて、皆美味しいものばっかり食べて、高い酒を飲んでなんて、断片的な情報を大げさに話すものだから。それで、羨ましさとか憧れとか憎しみとか色んな感情が段々と膨らんでいくんでしょうね。特に10代後半から20代始めの人たちは。確かに彼らが画内の住人になる確率はほとんどゼロですからね」
 
 しゃべっているうちに門前仲町の駅に着いた。時計を見ると10時近い。電車はまだあるだろうかと心配になる。
 「今日は最後の最後までお世話になりました。今度来るときは画外仕様できめてきますよ。市川さんも奥さんや子供さんを連れて是非一度北海道に遊びに来てください。歓迎しますよ。じゃ、終電に乗り遅れるとまずいのでこれで失礼します。工場長や皆さんによろしくお伝えください」


 14.カラマツ林
 最初の特別指名手配が出て10日後、11月24日の火曜日、奥多摩山中で二人の男の遺体が発見された。登山者が近道をしようと通常の登山道をそれた踏み跡を10mほど入ったところに大きく埋め戻された跡を発見し、不審に思って近くの派出所に届け出たのだ。二人は裸の状態で所持品はなく、身元確認に手間取るかと思われたが、埋められてから発見されるまでの時間が短かったため身元確認が迅速に行われ、3日後には実行犯の二人であることが確認された。周囲に庄田の遺体はなかった。

 その後、首都圏を中心に捜査が全国的に展開されたが新たな発見はなかった。MCのサイトもその後しばらくはこの事件に関する発信はしなくなった。捜査は膠着状態に陥った。
 初期の捜査で所在のつかめなかったのは7人だったが、そのうち4人はその後所在が確認され、MCとの関わりは否定できないものの事件との直接的な関係は無いものと断定された。残る3人は依然所在不明のままだった。 
 一方、初期の捜査で網に掛ったものの関係なしとされた21人について洗い直しが行われた結果、二名がその後の行動、インターネットの通信履歴、スマホの通話内容から事件に関与している可能性が極めて高いことが判明した。
 捜査当局は、この二名に任意同行を求めるとともに、所在のつかめない三名の逮捕状を請求した。
 まず、所在のつかめない三名の自宅を家宅捜索した結果、一人の家の倉庫に爆弾を作るのに必要な薬品が保管されていることが確認された。また、離れで爆弾を製造したと推定される化学反応が検出された。残りの二人の自宅からは爆発事件に直接関与していたことを裏付けるものは出なかったが、動静を把握されている二人とは面識があることを裏付ける証拠が出た。捜査の結果、彼ら4人はMCジャパンの活動資金の調達を任されるとともに、兵士としての訓練を山梨県の山中で受けていたようだった。
 任意同行を求められた二人に対する取り調べは苛烈を極めた。国家の威信がかかっていた。任意同行とは名ばかりで、情け容赦ないとはこのことだ。一人が、警察官が5分ほど部屋を空けたすきに隠し持っていた青酸カリを飲んで自ら口を閉ざした。取り調べが集中したもう一人が決定的な証言をした。知り合いの別荘が山梨県内にあるという。奥多摩からもそう遠くないところだった。
 6人全員か少なくとも一部の者が潜伏している可能性が高い。当然、武装していることだろう。

 12月28日月曜日の早朝、カラマツ林は既に葉を落とし地面にはうっすらと雪が積もっていた。曇り空に小雪が舞っていた。別荘を機動隊が幾重にも取り囲んだ。勿論別荘からは見えないように。
 電力会社の車が新雪に轍を付けて別荘に近付きそして止まった。制服を着た二人の中年男がツールボックスを片手に別荘に向かう。一人がドア横のインターホンを押した。応答はない。もう一度押す。応答はない。別荘のなかに人の気配はなく灯りも点ってはいない。二人はゆっくりと別荘の裏手に回る。薄く積もった雪に足跡が付く。勝手口を見つけ、ドンドンと叩く。静かなままだ。勝手口の右上に電力メーターがあった。メーターの円盤は回っていた。中に人がいる可能性が高い。別荘の持ち主の名前を大きな声で呼ぶ。「お留守ですか?東京電力ですが。どなたかいらっしゃいませんか?」ガチャガチャとドアノブを回す。鍵が掛っている。「いらっしゃいませんか?また、明日伺います」と大声で言って表側に回り、電力会社の車に乗って元来た道を帰って行った。

 電力会社の制服を着た男が6人歩いて別荘に近づいてくる。その中に先ほど来た二人もいる。6人とも大きなツールボックスを持っている。3人ずつに分かれ玄関と勝手口の前に立つ。同時に両方のドアを蹴破った。中からダダダダッ!!ダダダダッ!!と弾が飛び出してきた。玄関で先頭にいた制服の男が弾き飛ばされた。勝手口で先頭にいた制服の男は咄嗟にドアを離れて撃たれずに済んだ。制服が玄関、勝手口、窓、ベランダから中に向かって応戦するパンッパンッパンッパンッ!!!いつの間にか別荘の周りをジュラルミンの盾が取り囲んでいる。中からダダダダッ!!と乱射してきた後、ドンッ!!という轟音とともに別荘が膨らみ、窓やドアから火炎が噴出し、破片が四方に飛び散った。ジュラルミンの壁が吹き飛ばされた。
 
 この事件で、警察官6人が死んだ。後日DNA鑑定の結果、別荘に潜んでいたのはMCジャパンのトップの在日ムスリムと所在がつかめなかった三人のうちの一人だった。
 残りは4人だ。別荘近くのコンビニや周辺道路の防犯カメラの画像を解析したところ1台の車が頻繁に映し出されていた。車種が特定された。この情報は極秘中の極秘とされた。年が明け、お屠蘇気分を締め括る成人の日の1月11日。ハッピーマンデーの午後、首都圏で一斉検問が行われた。狙いは表向き飲酒運転撲滅だ。
 網にかかった。車のシートの下から爆弾が発見された。運転していたのは同じく所在をつかめなかった三人のうちのもう一人だった。助手席にはナンバー2の助教が座っていた。抵抗する術はなかった。
 二人を徹底的に締め上げた。前回の失敗があるので所持品検査は尻の穴までしっかりとやった。残る二人の行方をなんとしても掴まなければならない。あと二人を逮捕できれば、この大事件は一山越える。しかし、二人は口を割らなかった。二人とも同じ言葉を発した以外は黙秘を続けた。「恐怖はこれからだ」残る二人、庄田と名乗る男と爆弾を製造していた男は完全に姿を消した。


15.シャトル
作品名:画-かく- 作家名:芳野 喬