小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

画-かく-

INDEX|35ページ/50ページ|

次のページ前のページ
 

 しかし、ロシアにしてもシベリア、極東地方の開発を進める上で日本の技術や投資は魅力的だ。これまでシベリア、極東開発では中国の力を利用してきたが、中国の侵食力は猛烈で下手をすると領土まで持って行かれかねない。ここは日本と中国を競わせてロシアがおいしいところを頂くというのが得策だと考えた。そんな思惑から領土の返還をチラつかせながら平和条約交渉を断続的に続けてきた。
 そうした中2023年、日本が画期的なメタンハイドレートの採掘技術を開発し、日本経済は復活を始めた。欧州経済崩壊の影響をもろに受け国民生活が困窮していたロシアにとって、日本は眩しく輝く国になった。
 中国にかつての勢いはない。何としても日本に接近したい。沿海州の沖合やカムチャッカ半島北部の沖合にはメタンハイドレートが大量に眠っている。日本から技術と投資を呼び込むことができれば、極東だけでなくロシア経済の復活につながるかもしれない。北方4島すべてを返す気などさらさらないが、歯舞群島と色丹島くらいなら返してやってもいいだろう。それに拒否権のない常任の理事国にしてやると言えば文句はあるまい。そう考えた。

 これで日本の準常任委理事国への流れができた。先ず常任理事国5か国によるハイレベルの非公式会合が始まった。
 アメリカとイギリスは歩調を合わせていた。日本とドイツは先の大戦後、民主主義国家として着実に発展してきたこと、国連に対して財政面をはじめ多大な貢献をしてきたことを考慮すれば常任理事国とすることに反対する理由はないというものだった。
 一方で、インドとブラジルに関しては、常任の理事国とすることに敢えて反対はしないが拒否権は与えられないというものだった。その理由は両国とも政治体制がいまだ不安定であり、責任能力も貧弱であるということだ。つまり常任理事国ではなく準常任理事国が妥当であるというものだった。

 ロシアは正反対だ。インド、ブラジルは常任理事国として認め、ドイツと日本は準常任理事国とすべきであるというものだ。理由は常任理事国の中に発展途上国の代表が中国以外に入っていないということだ。一方で、先進国はアメリカ、イギリス、フランスの3か国が入っており、現在の国連加盟国の構成割合からすると3か国でも多すぎるくらいで、ドイツと日本は準常任理事国で十分だというものだ。
 ロシアとしては、BRICSの盟主としてインド、ブラジルを常任理事国に加え、安全保障理事会での影響力を一層強める狙いがあった。

 中国はロシアとほぼ同じ主張だった。ただ一つ違うのはドイツはともかく日本が準常任理事国になることは絶対に認められないというものだ。理由は、日本は先の大戦の反省をしていないというものだ。
 最後まで態度を保留していたのはフランスだった。他の3か国に特に興味はないが、ドイツの常任理事国入りは絶対に阻止したい。しかし、そのような思惑は絶対に悟られたくない。結局4か国すべてを準常任理事国として認めるという決断をした。理由は、4か国ともそれ相応の力量は認めるが、拒否権を持つ国が一挙に4か国も増えてしまうと、ただでさえ混迷状態に陥りやすい安全保障理事会が完全に機能しなくなるというものだった。

 フランスの提案は、アメリカ、イギリス連合の提案とロシア、中国の提案の間を取った案でもあった。流れはフランス案でまとまるかに見えた。しかし、これに猛反対したのは中国だ。日本だけは嫌だ。準常任理事国とはいえ安全保障理事会に毎回日本が顔を出すことなど想像したくもない。そこで、アメリカ、イギリス、フランスに対して説得工作を続けた。先の大戦で日本はどれだけ極悪非道な行為をしてきたか。こんな鬼のような国を安全保障理事会の構成メンバーにしてはいけないと。ロシアは日本が準常任理事国になること自体好ましいとは思わないが、極東開発を考えると日本を敵に回したくはなかった。そしてダンマリを決め込んだ。

 中国は執拗に説得工作を続けた。しかし、ウイグル族、チベット族の問題を抱える中国の説得はなかなか功を奏しない。逆に「貴国の国内の混乱がこのまま続くようなら国連としても見過ごすことはできなくなる。民主的手段を用いて早急に問題を解決してほしい」と要請される始末だった。
 そして、2023年秋、常任理事国5か国のハイレベル協議においてフランス案が承認された。後は総会で2/3の賛成を得るだけだ。韓国、イタリア、パキスタン、アルゼンチンなど抵抗勢力は反対の説得工作を続けたがすでに勝負は着いていた。
 2024年の国連総会で国連憲章の改正、すなわち安全保障理事会の理事国の総数を4増やすとともに4か国を準常任理事国にすることが決議された。
 また、4か国が正式に準常任理事国となるのは2/3の加盟国が批准したときとするが、4か国については直ちに非常任理事国として選任し、安全保障理事会の主要メンバーにすることが併せて決議された。


7.東京工場
 「着きました。よろしければ挨拶だけさせて頂いて、それから内藤さんのところに行こうと思いますがいいですか?」
 「勿論。とはいえ僕も初めてなんで勝手がわからない。とにかく一緒に行きましょう」
 勝手を知った松田が先導し、駐車場に面した鉄骨造りの質素な3階建ての事務所に入っていく。事務所の横は大きな倉庫だ。工場らしい建物は見えない。
 
 「お早うございます。いつもお世話になっております。KPWの松田です。今日は芳野専務をお連れしました」松田が良く通る声で事務所に入るなり挨拶した。まるで秘書のようだ。事務所内の全員が振り向き、立ち上がった。
 「お早うございます。旭川の芳野です。皆さんには日ごろからご尽力いただき感謝しております。また、今日初めて東京工場に伺うことができて、皆さんのお顔を拝見でき嬉しく思っています。どうかよろしくお願いします」心の準備もないまま挨拶をした。
 事務所には中年の男性職員が2人、若手の男性職員が2人、中年の女性職員が1人、若い女性職員が2人いた。痩せた方の中年の男性職員が近づいてきた。作業服を着ている。私と同い年くらいだろうか。もう一人の太めの中年は電話中だ。私より若そうだ。
 「お早うございます。総務部長の三浦です。よろしくお願いします。今、工場長のところにご案内します。松田さんありがとうございました。ご一緒にどうぞ」
 「改めまして芳野です。よろしくお願いします」
 「ありがとうございます。じゃご挨拶だけさせて頂きます。このあと内藤さんのところに行かないといけないので」
 三浦が私たち二人を事務所奥の工場長室に連れて行ってくれた。工場長は白髪、長身の男だった。工場長だけは背広を着ていた。ニコニコ笑っている。社長の話では来年定年を迎えるとのことだが元気そうだ。
 「ようこそお越しくださいました。工場長の門脇です。お待ちしておりました。さあお座りください。松田さんもどうぞ座って」我々にソファを勧めたが、松田はこれから内藤木材に行くのでと言って挨拶だけして退出した。入れ替わりに太目の中年が入ってきた。作業服だ。
 「ご挨拶遅れました。営業部次長の市川です。よろしくお願いします」
 「こちらこそ、芳野です。よろしくお願いします」
作品名:画-かく- 作家名:芳野 喬