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画-かく-

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 「よく分からないですけど。警棒持った警察官が怖そうな顔で運転者に怒鳴ってましたから。こっちは変に巻き添えを食いはしないかと冷や冷やでした」 
 「へえ。何だか物騒だね。考えたら現代の関所破りだもんな。江戸時代なら下手すりゃ獄門さらし首だ。とにかく今日は無事関所を通れて良かった。面白かった」
 
 車は隅田川を超え勝どきに入った。まだ晴海通りを走っている。正面の高層マンション群に圧倒される。橋を渡ると晴海だ。高層マンションの谷間の大きな交差点を左折する。谷間が続いている。
 「すごいマンション群だなあ。この辺りのマンションは値段も結構高かったんだろうけど画外になってガッカリしたんじゃないかな?」
 「ところが、このあたりは画外ではうまく対応した方ですね。もともとセキュリティー機能の高いマンションが多かったんで、機能を強化して簡単に要塞化できたみたいです。しかもこの辺りは水路で区切られてて、住民の所得レベルやマンションのグレードが大体同じくらいなので町ぐるみで警備会社と契約してしっかりと治安が維持されています。それに、都心に近くて便利だし、画内と違って自由な雰囲気も残ってるので居住権があっても画内に移らないで住み続けている人が多いようです。画外では珍しく成功している場所じゃないかな」
 
 車は緩やかに右に曲がって橋を渡り、さらに右折して直進するとまた橋を渡る。橋以外は埋立地特有の平坦な道だ。両側は高層から中層のマンション群に変わり、大型ショッピングモールの横を通り過ぎる。やがて正面に首都高湾岸線の高架が見えてきた。首都高の下をくぐって左折する。この辺りまで来るとさすがに風景が一変した。物流倉庫や低層のオフィスビルが並び、海側にはトラックヤードや資材置き場が広がっている。いい天気だ。
 「もうすぐ新木場に着きます。お疲れ様でした」
 「いやいや、疲れたのは松田さんの方だよ。僕は外を眺めていただけだから。お蔭で予定より早く着けて良かった。久しぶりに東京見物もできたし、関所も体験できたしね。本当にありがとうございました」
 左手に新木場駅が見えてきた。向かい側には高いオフィスビルが建っている。そこを過ぎると道の両側に倉庫や低層のビルが延々と並んでいた。その中に目指す東京工場があった。松田が慣れた調子で車を駐車場に入れた。


6.駆け引き
 国連は一国一票だ。超大国のアメリカやロシアも一票、南太平洋に浮かぶ人口1万人にも満たないツバルという国も一票だ。票の効力は平等だ。日本が長年援助を続けてきた発展途上国は日本に味方してくれる可能性が高い。2/3の国が賛成してくれる可能性も十分期待できる。

 ところがどっこい、そうは問屋がおろさない。日本に好意的な国ばかりではないからだ。ましてや日本が常任理事国になるなどもってのほかという国がある。例えば中国だ。その中国は常任理事国だ。中国一国でもその壁はとてつもなく高い。
 他の国はどうか?常任理事国のうちアメリカは日本が常任理事国入りすることは賛成だ。何故か?それは日本がアメリカの言うことをよく聞いてくれるからだ。いつも賛成してくれる従順な見方なら多い方が良い。
 イギリスはどうか?イギリスは基本的にアメリカが良いなら特に反対しない国だ。しかも国王、天皇と違いはあれ同じ立憲君主制をとる国同士、日本に対して好意的だ。
 フランスは微妙だ。日本のような東洋の島国がどうなろうと知ったことではないが、もし日本を認めてしまうとバランス上ドイツも認めざるを得なくなる。もしドイツが常任理事国になったら、これまで保たれてきたフランスとドイツのバランスが一気にドイツの方に傾いてしまう。これは嫌だ。
 最後にロシアはどうか?もちろん反対だ。アメリカの味方というよりアメリカの子分が一匹増えるのだ。賛成するはずがない。こんな状況だから常任理事国への道は険しく遠かった。

 東京オリンピックの翌年、新彊ウイグル自治区とチベット自治区で中国政府は広範囲で強硬な弾圧を開始した。大選手団をオリンピックに送り込んで国の威信を見せつけた中国だったが、国の財政事情は軍事費の増大が重石となって極めて深刻な状況に陥っていた。
 公表された数値を見る限り特段の問題はなく、経済もそこそこ順調に推移しているように見えた。しかし、無理に無理を重ねて膨張した経済はいつ弾けてもおかしくないまさに臨界状態だった。
 都市部では、バブル崩壊が秒読み段階に入り、政府関係者、国営企業、産業界、投資家、小金持ちたちの疑心暗鬼が渦巻き、国全体を暗雲が覆っていた。地方、農村部はさらに深刻だ。長年の農薬、化学肥料の大量投入と地球温暖化の影響で収量が激減し、飢餓が常態化していた。
 中国政府は、辺境のウイグル族、チベット族の土地に活路を見出すべく飢餓に苦しむ漢民族を大量に移住させ、権益の拡大を図った。同時に、民族の誇りである独自の言語や宗教を圧殺し、着々と中国化を進めていった。
 弾圧された側だって黙って見過ごせるはずがない。平和的なデモもあれば少々過激なものもあった。しかし、何らかの抵抗活動を行えば中国政府は彼らにテロリストのレッテルを貼り、容赦のない取締りと拷問で応酬した。弾圧と抵抗の連鎖が始まった。
 
 中国政府のあまりに強引なやり方にアメリカをはじめとする西側諸国はついに口を開き始めた。これまでは、対中貿易に影響が出ないように穏便にことを済ませてきた。しかし、インターネットを通じて世界に流出する人権侵害、人権弾圧の動画の多さにさすがに見て見ぬふりができなくなったのだ。
 しかも、経済の失速によって中国国内の市場としての魅力が薄れ、同時に人件費の高騰と相次ぐ労働争議で世界の工場としての地位も低下し、経済面で過度に配慮する必要性がなくなっていた。遠慮する必要がなければ人権問題に敏感な西側諸国は一斉に文句を言い始めた。
 国連、APEC、アセアン拡大外相会議、G7サミットなど様々な場で中国叩きが始まった。勿論中国も「明らかな内政干渉だ」として猛烈に反攻したが、経済の凋落とともに勢いは低下するばかりだった。

 この機を逃す手はない。日本政府は同じく常任理事国入りを狙うドイツ、インド、ブラジルと結束して国連加盟国への説得工作を開始した。多くの発展途上国は日本やドイツには借りがある。インド、ブラジルが入ることは発展途上国の仲間と思えば反対はしにくい。一つ一つ賛成してくれる国を増やしていった。
 一方、反対する国は中国ばかりではない。隣国だ。日本に対する韓国、ドイツに対するイタリア、インドに対するパキスタン、ブラジルに対するアルゼンチンなどだ。彼らは彼らで反対の説得工作を始めた。

 日本にとってもう一つ厄介な国があった。ロシアだ。日本とロシアの間には北方領土という避けて通れない難問があった。戦後のドサクサに紛れて手に入れた領土だったが、半世紀以上も占拠し続ければ領土と同じだ。簡単に返すはずがない。
作品名:画-かく- 作家名:芳野 喬