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画-かく-

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 「それがですね。あそこは特別なんです。二子玉川は住宅地のエリアが広いからまとめられなかったんですけど、田園調布の豪邸のあるエリアは一つ所にまとまってるでしょ。だから、その一帯をぐるりと城壁のような高い壁で囲っちゃったんですよ。勿論城壁の入り口には門番もいます。回りからは隔絶された世界です。逆にその周りが以前より格落ちしちゃって。とにかくあの辺りはちょっと異様な感じがして住みたいとは思いませんね」
 「へえ。難しいもんだね」
 

4.贖罪
 日本は、戦後、自国の復興を終えると、戦争への償いの思いを込めて、かつて侵攻した南の国々をはじめとする発展途上国に対して様々な援助を続けた。代表的なものは「円借款」だ。これは「えんしゃっかん」と読む。何ともへんな言葉だが、要するにある国に対して超低金利で長い期間お金つまり円を貸してあげますよというものだ。お金を借りた国はその金を使って発電所、ガス供給設備、鉄道などの社会インフラを整備することができる。但し、借りたお金なので返さないといけない。
 何だ、貸すだけかと思うかもしれないが、発展途上国は社会の信用が低いので貸してくれるだけでも十分有難いのだ。また、せっかく借りたお金だから無駄使いしにくい。だから、結果的にその国の自立を促すことになるという理屈だ。要するに超がつく低金利で長期間お貸ししますよというのがミソだ。このように返済を条件とする協力のことを「有償資金協力」という。
 もう一つ「無償資金協力」というのもある。これは特に貧しい国に対して行うもので、病院、学校、道路などの建設や医療機材、教育訓練機材などの購入に充てる費用を日本が全額負担するというものだ。この場合は勿論返済しなくていい。
 このほかにも日本の進んだ技術を日本が費用を負担してその国の国民に教える「技術協力」というのもある。
 このような援助を長年続けてきた結果、発展途上国はその名のとおり発展を続け、中には新興国といわれるほどに経済が発展した国も現れた。援助に汗を流す日本人の姿を目の当たりにして、多くの国は戦後の日本の変化を信じ、平和国家としての日本の歩みを支持してくれるようになった。当初、戦争への償いを目的として始まった援助も、半世紀ほど過ぎた頃には日本を赦し、友情と共感を醸成するものに変わっていった。


5.勝どき関所
 いつの間にか車はJRの高架下をくぐり、新橋駅の東側を通過して、正面に銀座通りが見えてきた。銀座通りも新橋駅周辺も以前に比べてビルが随分と高くなった。その分、道路が少し狭くなったように感じる。この辺りも走っている車の数は少なく、スムーズに流れていく。
 ここで車は右折して昭和通りに入った。緩やかにカーブしてしばらく直進し、東銀座の交差点でまた右折した。晴海通りだ。左に歌舞伎座が見えた。13代目団十郎は得意の荒事をちょっと艶っぽく演じているのだろうか。しばらく走ると築地の交差点だ。左手のエキゾチックな築地本願寺を見ていたら車が止まった。渋滞だ。
   
 「渋滞してますね」
 「いえ渋滞じゃなくて、この先に勝どき関所があるので」
 「ああ、関所ね。始めてだな。関所通るの。緊張するね」
 「いえ、高速の出入り口と変わりません。大したことありませんよ。密入画者とかでなければ何も問題ありません。あっそうだ。芳野さん、すみませんが国民カードをそこのカードリーダーに入れてもらえますか?挿入口が5つあるんですけど。上の段の左側にお願いします。カードの向きとか裏表は関係ありません」
 ダッシュボードの上、真ん中より少し助手席側に寄ったところにカードリーダーが置かれている。上の段に2個。下の段に3個挿入口がある。上の段の右側には既に一枚カードが挿入されている。松田のものだろう。
 「ここね。面白いなあ。ETCみたいだね」
 「そうですね。関所を通るのはETCとほとんど変わりません。実際、私のカードはETCもつけてますので高速道路ではそのまま使えます。今日は一般道だから関係ないですけど確かに便利ですよね」
 「でも、ETCのようなものでちゃんと管理できるんだろうか?」
 「私も詳しいシステムは分かりませんが、ゲートに入ると1、2秒で乗車している人数を確認して人物も特定できるそうです。同時に車内に不審物がないかもX線か何かで検知するらしいです。ですから、バーの開くのがETCに比べると少し遅いですね」

 車は徐々にだが動いている。途中から道路は2階建てになった。私たちの車線が2階、対向車線は1階だ。2階建てになってからしばらく行くと道路が扇型に広がった。扇の要を過ぎて、全部で6ある列の右から2番目の最後尾に松田が車を付けた。
 「どの列に付けるのかはちょっとしたギャンブルなんですよ。車が少ない列の後に付けてラッキーと思っていたら先の車が出画審査でトラブって、延々と待たされたりするんで。逆にトラブった列を横眼に見ながらスムーズに抜けられるとちょっと得した気分です。人間小さいですかね」
 「分かりますよその気持ち。今日はうまくいくといいですね」
 「私は、勝どき関所ではいつもこの2列目ですね。ここでは引っかかったことがない。ゲンがいいんです」
 「なるほど。ところでゲートは6か所なんですか?」
 「勝どきは下りは6か所ですね。別にシャトルバス専用のレーンがあります。シャトルのレーンはゲートではなくてただのレーンですけど。上りは一般車両用のゲートが11か所あって、シャトルのレーンが1か所あります。上りは通勤時間帯に入画する車が集中するのと、入画の方がトラブルが多いからゲート数を多くしてあるらしいです。下りは時間帯が分散するし、トラブルも少ないからゲートも少なくていいんでしょうね」
 
 話している間にゲートが近づいてくる。ゲートの横に今は見かけなくなった高速道路の料金徴収員が入るボックスより少し大きめのボックスがあり、中に人が2人入っているのが見える。勿論料金の徴収などしていない。座っているだけだ。
 前方の車がゆっくりとゲートを通過していく。止められている車はここからは見えない。ゲートが近づいてくる。何だかドキドキしてくる。空港では何ともなかったのに不思議な気分だ。松田の車がゆっくりとゲートに入っていく。高速道路のETCよりも遅い。ボックスの警察官は二人とも無表情だ。カードリーダーがピッと鳴る。同時にゲートのバーが開く。これで終わりだ。ゲートを抜けた車は加速し扇の要に向かっていく。
 
 「あっけなかったですね」
 「でしょ。あんなもんです簡単でしょ。今日もついてました。プチハッピーという気分ですね」
 「でも、何かあったらあの警察官が出てくるんだよね」
 「そうですね。飛び出してきます。運転者や同乗者を職質します。車の中の検査はそのときはやりません。渋滞が起きますから。詰所から代わりの警察官がやってきてボックスに収まったら、車を詰所に連行していきます。結構手際よくて5分くらいで連行していきます。私の前の前の車が捕まったのを別の関所で見たことがあります。実際に見たのはそのときだけですね」
 「事件ぽかったんですか?」
作品名:画-かく- 作家名:芳野 喬