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画-かく-

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 「そうですよね。でも長くいると感じるかもしれませんね。画内って安全だし、綺麗だし、便利なんですけどなんかいつも監視されてるみたいで居心地悪いんですよね。画外はちょっとがさつで荒っぽい感じはするけど、自由というか人間臭いというか、本当に気楽なんですよね。この姿ならしっくりとその雰囲気に溶け込めますから。慣れれば画外の方が絶対暮らしやすいです。高級レストランはないけれどうまくて安い居酒屋は沢山あるし、おいしいビストロなんかも結構あります。物価も安いですしね。画内にこもってお高くとまってるのと画外で自由にやるのと、どっちが幸せかわからないですよ」
 
 話している間に地下駐車場の松田の車の前に着いた。車は白い背の高い四駆だ。バンパーは所々凹んでいて、ドアにも何本か引っ掻いた傷がある。取っ手を握って助手席に乗り込む。
 松田が慣れた手つきで車を操り、第一京浜に入っていく。車の数は思ったより少ない。流れはスムーズだ。
 「ボロい車ですみません。でも一応掃除はしておきましたから」
 「いやいや全然構いませんよ。この車も画外仕様なの?」
 「あっ?いえ、これは画外仕様ということじゃないです。原木を見に森に出かけることが多いんで。でも、確かに画外仕様と言われればそんな感じがしてきますね。芳野さん面白いこといいますね」
 「はは。ところで、松田さんはどこに住んでるの?画外みたいなこと言ってたけど」


2.準常任理事国
 納税額比例選挙権制度と国会一院化に関する法律が施行された2024年、日本は国連の安全保障理事会の「準常任理事国」になった。
 さすがに常任理事国にはなれなかったが、日本政府とりわけ外交省が長年抱き続けてきた念願がこの年ついに叶った。
 
 ところで、国連を運営するにはお金が必要だ。そのお金は国連加盟国が分担金として支払っている。最も多くの金額を負担しているのはどの国だろうか?それは勿論アメリカだ。ニューヨークに国連の本部を置かせ、自他ともに認める国連の胴元として振舞っているのだから。では、二番目はどこか?ロシアか?フランスか?それとも中国か?
 それは日本だ。では、三番目はどこか?ドイツだ。日本は1956年に国連への加盟を許され、ドイツは1973年に加盟を許された。国連が設立されたのは1945年だから、設立後11年目に加盟を許された日本と、18年目にようやく許されたドイツが二番目と三番目なのだ。アメリカは予算の22%、日本は11%、ドイツは7%を負担している。   
 アメリカ以外の常任理事国である英国、フランス、中国はいずれも5%だ。いつもアメリカに敵対し、いかにも準主役のような顔をしているロシアは2%しか負担していない。

 なぜか?何故、常任理事国でもない日本とドイツが多額の負担をしているのだろうか?その答えは簡単だ。先の第二次世界大戦で負けたからだ。立派な理想を掲げて、私利私欲なく世界のために尽くしているように見える国連だが、何のことはない国連というのは先の大戦の「戦勝国クラブ」にすぎないのだ。だから大戦で負けた側はせっせと貢がないと仲間に入れてもらえないということだ。
 
 しかし、先の大戦からは既に半世紀以上が過ぎた。日本もドイツもこれまで品行方正、平和に尽くし、国連を運営する予算についても大きな貢献をしてきた。もうそろそろ「敵国扱い」は止めてほしい。一人前に扱ってほしいと思うのは当然だろう。そこで、外交省は21世紀に入り、国連の安全保障理事会改革すなわち日本の常任理事国入りに真剣に取り組み始めた。

 さて、日本が常任理事国になるためにはどうすればいいのだろうか?
 それには、国連が存在する根拠である「国連憲章」という法律のようなものを改正する必要がある。具体的には国連憲章のうち安全保障理事会について定めた第5章を改正することだ。
 では、国連憲章はどのようにすれば改正できるのだろうか?
 第一のハードルは国連総会だ。国連総会で2/3の国から賛成してもらわなければならない。過半数ではない、2/3だ。これだけでもハードルは高そうだ。
 次のハードルも結構高い。国連加盟国の2/3に「批准」してもらわなければならない。批准とは聞きなれない言葉だが、平たくいえば2/3の国が憲章の改正をそれぞれの国で承認する手続きが必要なのだ。これは確かに面倒くさそうだ。日本がいくら焦ってみても、相手にとっちゃ所詮他人事だから、後回しにされることも多い。ただ、そうは言っても一度総会で賛成してくれた国ならいずれは手続きをしてくれるだろう。単純にいえばこれで国連憲章は改正できるということになる。
 何だ?そういうことなら粘り強く頑張れば何とかなりそうじゃないかと思うが、実はもっと大きな壁がある。
 
 大きな壁とは2/3の中に5つの常任理事国すべてが入っていないといけないということだ。例えば2/3をはるかに上回る国が賛成してくれたとしても、アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国の5か国のうち、どこか一つでも反対する国があれば絶対に国連憲章は改正できない、つまり常任理事国にはなれないということだ。


3.田園調布
 「今は二子玉川に住んでます。画内には住めません、まだ居住権ありませんから。一生持てないかもしれません。でも、仮に居住権が取れたとしても住まない可能性の方が高いでしょうね」と松田が答える。
 「居住権か。そうだったね。でも、いいところに住んでるじゃない」
 「そうですね、画外ではいい方かもしれませんね。ただ、芳野さんの知ってる二子玉川とは違うと思いますよ」
 「どうして?」
 
 「画が出来てから二子玉川のような郊外型の高級住宅地と言われるところが一番微妙な雰囲気になっちゃったみたいです。隣近所で居住権を持てた人と持てない人ができて。居住権を持てた人は徐々に画内に移っていくし、持てない人は取り残されたようになって。画内に移った人の家には私たちみたいな新住民が越して来るし。以前住んでた人たちと私たちとは年収が違うから、残された人たちとは初めのうちお互い馴染めなくて。特にギリギリの線で居住権を持てなかった人たちは取り残されたという思いが特に強いようで。隣近所と付き合わなくなったり、家に閉じこもったままという人も結構いるようです。人間関係って難しいですよね」
 「なるほど。画が生み出す人間ドラマだね」
 「私は新住民だし、そもそも鈍感な方だから気になりませんけど。多摩川がすぐそばでジョギングしても気持ちいいし、高級住宅地の名残で生活は便利だし、それに通勤も便利だから気にいってます。画が出来る前なら絶対住めなかったところだから画のお蔭ですかね」
 「なるほどね。じゃあいっそのこと田園調布に住めばいいのに。あそこも画外じゃない。自慢できるのかできないのか分からないけど」
作品名:画-かく- 作家名:芳野 喬