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画-かく-

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 むしろ、この制度のお蔭で税金を多く納めてくれるお人好しが増えるならまんざら悪い制度とは言えないんじゃないか?これをきっかけに、お金持ちからガッポリ税金を取ってもらえばいい。まあ。我々庶民はたいして税金を払っている訳じゃないからあまり文句も言えないか?
 良く言えば分をわきまえる、悪く言えば大勢になびきやすい国民性、お任せ民主主義の伝統からか、納税額比例選挙制度に対する抵抗感は次第に薄れていった。

 もう一方の国会の一院化はもっとあっさりとしていた。これに対する国民の抵抗感は初めからゼロだった。国会議員の取り巻きや議員から何らかの恩恵を受けている者たちはごく少数派であり、大半の国民にとって、国会議員とは選挙の時だけ妙に愛想が良いが、選挙が終われば物知り顔で演説をぶっている目立ちたがり屋。その実、いつもは何をやっているのかさっぱりわからない人たちというのが大体のイメージだ。そんな国会議員がいなくなっても何も困らない。むしろ、国会議員が減って、彼らに支払う給料が減って、それが国民に少しでも回ってくるなら願ってもないことだ。
 何のことはない、一院化の最大の抵抗勢力は失職を余儀なくされる国会議員、特に参議院議員たちだ。勿論、憲法学者や政治学者、弁護士たちは民主主義を否定する暴挙だと批判したが、国民の共感は全く得られなかった。

 7月9日の投票日は全国的に朝から晴れわたっていた。しかし、梅雨の晴れ間にしては気温はさほど上がらなかった。投票所への出足は朝から順調だった。
 週末の株価は今年の最高値を付けていた。金額はともかく多くの労働者がボーナスや一時金を手にしていた。最終の投票率は71%まではね上がった。与党は勝利した。すべての常任委員会で委員長を独占し、なおかつ過半数の委員数を確保できる絶対安定多数を15議席も上回った。勝利を確信していた与党の幹部さえも予想できないほどの圧勝だった。国民の大多数が与党を支持した。長田は賭けに勝った。もう躊躇することはない、国会の大改革を断行するのみだ。





第4章 密入画
1.アイラ
 踊場のない急な階段を昇りきった2階の右側に分厚い木目のドアがあった。ドアの横に「バーアイラ」の看板が架かっている。
 けやきの入っているビルから2ブロック虎の門方面に行ったところに昭和時代そのままの4階建ての雑居ビルがあった。1階は間口の狭いコンビニで、その左手に2階に上る入口が開いている。入口の壁にバーアイラ2Fと虎の門探偵社3Fの表札が2枚だけ貼りつけられている。手すりを持たないと転げ落ちそうな急な階段だ。暗くて少しかび臭い。目的がないと絶対に昇って行こうとは思わないところだ。
 あと2ブロック行けば神村の会社のあるビルだ。新橋や虎の門の再開発に乗り遅れた区画なのだろう。いまどき探偵社などやっていけるのかと思うが人間の欲望や猜疑心はいつの世も涸れることはないのだろう。

 けやきで旨い酒と魚を堪能したはずだが、やはり二次会は欠かせないという神村、矢崎、前田と私の4人で神村行きつけのバーにやってきた。大原は明朝出張結果をまとめて午後一に課内報告会をするというので不参加。酒があまり強くない増本と小西は一次会で退散した。
 前田は筑波の研究都市に住んでいる。研究都市には国内の研究機関が集積しているのでセキュリティーの関係から「ミニ画」になっている。だから、夜間も11時頃までは画内発研究都市直行の専用電車が走っている。秋葉原駅を出ると研究都市のミニ画内の最初の駅まではノンストップで30分少々で到着するので下手に東京の画外に住むより便利だ。ということで前田も10時過ぎまでは付き合えるとのことだ。
 研究都市のミニ画の周囲は東京のようにグリーンベルトで囲まれてはいない。手っ取り早く高さ3.5mのコンクリート壁で囲われている。このため筑波監獄と呼ばれ研究都市に住む研究者たちにはすこぶる評判が悪い。ただ、ミニ画と言っても面積は広大で普段暮らす分には壁を目にすることはなく、当然のこと出入りは自由にできるし、画外と比べ安全性が格段に高く、福利厚生施設や教育環境が十分に整備されているので、文句を言う割には長く住み続ける人が多く人口も増えている。

 ドアを押し開け店内に入る。神村がカウンターの中のマスターに軽く会釈し、無言で親指を折った右手を挙げ、4人であることを知らせる。マスターも軽く会釈しカウンター奥の4人掛けの席を指さす。神村に続いて3人も席に向かう。店内はカウンターに10席ほど、カウンターの奥に4人掛けの席が1つと2人掛けの席が3つある。
 4人掛けの奥、つまり店の一番奥はフロアが一段高くなってステージのようにしてある。電子ピアノとドラムセットが据えてある。たまにライブでもやるのだろう。ビルの外観や重々しいドアの印象とは違って中は結構広い。
 店内は、カウンターの中ほどに中年男が一人座ってマスターと何やら話している。二つ席を空けたカウンターの端にカップルが一組ほとんど会話することもなくグラスを傾けている。2人掛けの席の一つにもカップルが座り語り合っている。店内には低くコルトレーンのバラッドが流れている。
 
 マスターが近づいてくる。
 「お久しぶり。2月の雪が降ったとき以来でしたか」
 「そうだね。あの時は早めに引き上げて良かったよ。お客さんたちはちゃんと帰れたのかな」と神村が応える。
 「4種の皆さんは画外に出るだけだから、電車がいつもより遅れたくらいで特に問題はなかったみたいです。むしろあの日画外に出ていたインナーの人たちが大変だったみたいですね。雪で画外線の電車が遅れて。ようやく画外のゲートに辿り着いたと思ったら入画の閉門時間は早いから入画できなくて。警察は24時間関所へ回るように指示したんだけど。画外電車が着く度にゲート前に入画できない人があふれ出して。インナーの人たちは皆さん強気だから、こんなときくらい入画時間を延長しろと押し問答になって相当混乱したみたいですね。結局、ほとんどの駅で入画時間を延長して、臨時のシャトルを走らせたようです。画内に入ってしまえば本数は少ないけど深夜まで電車は走ってるから何とかなったようですが。翌日常連さんがやってきて、なんだかんだで家に着いたのは夜中の3時で、風邪をひいたってぼやいてました。あ、長話になっちゃった。何にしましょう?」
 「じゃ、ラフロイグでいいかな?」と神村が皆の顔を見る。
 矢崎と私はうなずいたが、前田があの香りはちょっと言ってメーカーズマークのソーダ割りを注文した。神村が、じゃ二人はロックでいいよなと言ってから目でオーダーし、マスターがうなずいた。
 
 「ここは4種の人もよく来るから面白いよ。インナーの店は大抵がよそよそしくて落ち着かない。バカ高い店も多いし、慇懃無礼な店員もいるしな。ここは気持ちよく飲める。しかも安い」
 「いい店じゃないか。どうやって見つけたんだ?」と矢崎が聞く。
作品名:画-かく- 作家名:芳野 喬