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画-かく-

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 「はは。そりゃ災難だったな。出てしまうと面倒だぜ。俺も一回だけやった。あの時は京急を使ったんだが、なにしろ画外駅始発だからな。最初に蒲田行きで蒲田まで行って、蒲田で南立会川行きに乗り換えてだろう。で、南立会川に着いたらエスカレータで改札階まで降りて改札を出て。それから入画ゲートだ。ゲートを通ったらシャトルに乗って、境界を越えたらまた入画ゲートだ。それでめでたく入画という訳だ。それから北立会川駅の改札を通って、ホームに昇って、さあ北立会川始発でゆっくり座って行こうと思ってたら、その時に限って空港からの直行電車がホームに入って来やがった。直行を見送って次発の北立会川始発を待つのも変な話しだし、結局直行電車に乗って、本当にバカバカしいことをしたと悔やんだよ。でもな、4種の連中は毎日あんなことやってんだからな。感心するよ」
 
 「というと乗り換え3回か。相当なロスだ」
 「それだけじゃなかったんだよあの時は。知ってのとおり入画ゲートと言ったって読み取り機でカードをタッチするだけだから大した手間じゃない。ところが、あの時に限ってゲートの1台が整備のためとかで休止しててね。おまけに1台調子が悪くなって使えない。混雑しているところに、たまたま俺より少し前にゲートを通ったのが4種の奴で、入画許可が切れてるらしくて、あきらめてくれりゃいいのに仕事の都合でどうしても入画させてくれ。今日だけでいいから何とかしてくれと警察官にしつこく食い下がって。それを見ていた周りの4種の連中が加勢してな、「俺たちを差別するのか!4種をなめんな!」とか言って警察官を取り囲んでわいわいやりだした。もうてんやわんやだ。詰所から警察官が大勢駆けつけてきてね。ちょっと怖いくらいだった」
 「へえ」
 「結局、会社に着くまで2時間半ほど掛ったよ。画内行きの直行なら早けりゃ50分で会社に着けるのにな。とんだ災難だった」
 
 「しっかり者の君が何でそんなウッカリをやっちゃたんだ」
 「それがな、住宅を新築するときにうちの商品を入れてくれた社長がたまたま同じ飛行機に乗っててね。世間話をしているうちについ画外に出ちまったんだ」
 「え?君のお客には画外の人間もいるのか?」
 「何とぼけたことを言ってる。1種、2種、3種の資格を取れる人間で実際に画内に住んでいるのは半分もいないさ。生まれ故郷に愛着のある人間は沢山いるし、仕事の都合で地元を離れたくても離れられない人間もいる。権利が有っても画内居住権を申請しない者は沢山いる。また、下手に申請して懐具合を探られたくない富裕層もいるし、意地でも画内なんぞには入らんという気骨のある老人もいる。ちなみに飛行機で一緒になった社長は旧家の人間だからおいそれとは地元を離れられなくてね。工場が近いということもあって画外で暮らしてる。もっとも300坪の豪邸は高い塀と看視カメラと警備会社のシステムでガチガチに守られているけどね」
 「なるほど」
 「画外に住んでる富裕層は、大体があの社長のように暴力団の組長かと思うような家に住んでるか、高い壁と門番に守られたセキュリティータウンかセキュリティー機能の高い要塞みたいなマンションに住んでる」
 「北海道では考えられんな。なんだか空恐ろしくなってきたよ」
 「それほどじゃない。慣れだよ。ところで何日まで東京にいるんだ?」

 「9日までだよ。明日は新木場にある東京工場に行く。明後日は相模原だ。新木場の工場に行くのは初めてだ。僕の方は特に用事はなくて挨拶だけなんだけど、工場の方で色々と相談したいことがあるらしい。相模原の方は学生時代の友人に会いに行く。そいつは相模原で農業をやってるんだけど先週突然電話を寄越してね。折り入って話があると言ってきた。役所嫌いだから農務省に関係する話ではないだろうし、用件が何だか見当がつかない。元々何を考えているのか判らないところがある奴なんで怖くもあり楽しみでもある」

 デスクの電話が鳴った。
 「なんだ・・・そうかつないでくれ・・やあ、内藤さんこの前のコンペじゃお世話になりました。お陰様で2年ぶりの優勝で。一緒に回るメンバーがいいと違いますね。有難うございました・・・えっ?・・そんなに?・・そりゃ今すぐにでも見に行きたいですね。ところが、明日から四国と九州に出かけるもんで。戻りは日曜日の夜だから月曜日には伺います。とはいえよそに取られちゃまずいから取りあえず、明日うちの松田に見に行かせます。えっ?・・まだまだ任せられるレベルじゃないが筋はいい方ですよ。本人にはお前はまだまだ勉強が足りんと厳しく言ってますがね。内藤さん、商売抜きで鍛えてやって下さい。・・ではよろしく」
 「商売繁盛だな」
 「いやな、アメリカから飛び切りのマホガニーが入ったらしい。ワシントン条約で規制されているから氏素性がはっきりした良材はめったに入らなくなったんだ。きっと上物だと思う」
 
 「マホガニーね。さすがKPWだな。で、内藤さんって?」
 「ああ。内藤さんというのは新木場の銘木屋なんだがな、気をつけていないと通り過ぎてしまうようなちっぽけな材木屋でね。但し、銘木の目利きは天才的だ。しかも70歳近いのに、良材があると聞くと地球の裏側のジャングルまで分け入って行くような人だ。銘木ゲリラだな。しかも、法律に触れるような原木をつかませることは99%ない。もっとも本人は結構危ない目に遭ってるようだがな。勿論間違いない分だけ値段は張る。今はお互いウインウインで良い関係が出来ているから最初にうちに声を掛けてくれるんだ。ただ、物が物だけに何処に横取りされるか知れたものじゃない。取りあえず買う気を見せておかないとな。ということで明日うちの松田に行かせるということだ。良かったら松田の車に乗って行けよ。お宅の工場まで送って行かせる。ついでにお宅の工場にも挨拶して、それから内藤さんところに行かせるよ。お前も良かったら内藤さんところでマホガニー見てきたら?目の保養になるぜ」
 「そりゃ助かる。お言葉に甘えるよ。何しろ画の外に出るのは初めてだしね。ただ、マホガニーの方はあいにく時間がない。工場の方でいろいろと説明しておきたいようなのでね。それにマホガニーといったって丸太を眺めただけじゃ何が良いのかよく分からんしな」
 「何でも勉強だけど、本業の方が大事なのはもっともだ。じゃあ取りあえず明日松田に送らせる。ホテルはどこだ?」
 「品川のパレスホテル」
 「じゃあ9時にロビーでいいか?松田に庶民向けの材木の話でもしてやってくれ」
 「何か引っ掛るな。ところで松田さんは今いるの?」
 「ああ、いる。君が出るときに紹介する」
 

10.違憲判決
 2017年、国債発行を続ける中央政府の借金は増える一方だが、日本経済は足踏みしたままだ。
 国会改革はこれまで延々と時間と予算だけは費やされるが、そもそもやる気がないので何の成果も出てこない。そしてこの年、衆議院議員選挙いわゆる総選挙が行われた。
作品名:画-かく- 作家名:芳野 喬