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画-かく-

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 「でもね。いくらノー天気の僕でも画の境界が出来上がってくるとね。なんとなく窮屈な感じがしだして。それに加えて通報システムだろう。本当に息苦しくなってきたんだ。通報システムのお蔭で東京を離れる決心が付いたのかもしれない。でも、考えてみたらシステムと言っても何かあったら警察署に知らせるのって当たり前じゃないか。システムというから構えてしまうんだよな」
 「そうか、君はシステムのことを良く知らないんだよ。単に警察に知らせるだけじゃないんだ。要は通報すると、その者には報奨金が出るんだよ。まあ、通報されたものはほとんど軽犯罪レベルだけど。それでも、確か400件に1件が過激派によるテロ関係がらみ、100件に1件がテロじゃないが何等かの犯罪がらみだったって聞いたな」
 「じゃあ、それなりに効果があるんだ」
 「そうかもしれん。しかも、通報がテロとか犯罪の未然防止につながったということが公共放送のローカルニュースでよく取り上げられる。勿論通報者を特定できる情報は出ないで、未然防止の決め手になったことだけが大々的に報じられるんだ。通報者に支払われる報奨金の額は分からないが、ある程度インセンティブになってるらしい。次第にテロまがいだけじゃなく小さな犯罪も減ってきた。ということは、相互監視通報システムというのは一応は成功したと言える。グリーンベルトに囲まれた画内はこれで安泰という訳だ」
 「なるほどよく分かったよ。東京がそんなことになってたとはね。確かに安全にはなったんだろうけど、人間らしく暮らせるところじゃないな。北海道に逃げたのは正解だったよ」


8.憲法改正
 メタン景気で国民が浮かれ始めた2024年、憲法が改正された。但し憲法9条ではない、憲法42条から44条だ。要するに国会に関係する規定が改正された。
 2010年に「身を切る改革」と称した国会改革は案の定うやむやにされた。しかし、ついにその付けを払う時が来た。

 国会のことは憲法の第4章に定められている。その文章はこうなっていた。2014年までは。
 第41条 国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。
 第42条 国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成する。
 第43条 両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。
 2 両議院の議員の定数は、法律でこれを定める。
 第44条 両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、
 社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって差別してはならない。

 国会とは議員の集まりだ。だから議員たちは国会議員と呼ばれる。平たく言えば政治家だ。彼らは国民の代表だ。代表なのだから誇りを持って良い。いや、誇りを持ってもらいたい。何しろ選ばれた人たちなのだから。
 しかし、だからといって彼ら自身が特にえらい訳ではない。えらいのは国会だ。そこを勘違いしてもらっては困る。
 国民の代表なのだから常に国民の暮らしに目を向けて、国民のだれもが安心して暮らせるように、国民のだれもが心豊かに暮らせるようにその身を捧げてもらわなければならない。
 また、国民に新たな負担をかけ国民が反発しそうな政策であっても、それが真に国民にとって必要なものであるなら、粘り強く、分かりやすく国民に説明し、国民から理解と支持を得られるように最大限努力してもらわなければならない。
 さらには、国のあるべき姿、進むべき道を高い見識を持って思い描き、その実現に没頭してもらわなければならない。それが代表となった者の使命だ。
 
 ところが、実際には何のために政治家になったのか?と疑いたくなる人たちがいる。ある種の業界の利益だけを考えている人たち、ある種の思想に染まってその思想を広げることに奔走する人たち、ひとりよがりの使命感に酔って現実というものが見えていない人たち、絵に描いたような理想を掲げるが実行に移す気持ちも能力もない人たち、政治家という身分に身を置くことだけが目的になっている人たちだ。このような政治家は要らない。国民の代表と言えるような使命を果たしていないからだ。
 
 国の借金がとんでもない額に膨らみ、慌てて社会保険料の掛け金を引き上げたり、医療費や介護費用の国民の負担割合を引き上げたり、逆に年金支給額を減らしたり、さらには消費税の税率を引き上げたりと国民に重い負担を求めるのであれば、政治家たるもの率先垂範して身を切る努力をしてもらわなければならない。それが国民の代表としての当然の務めだろう。
 
 国会の姿を大きく変えることになる憲法改正が何故行われたか?
 それは、今からちょうど四半世紀前、憲法が改正される14年前の2010年にさかのぼる。
 「身を切る改革」と称して政治家たちは議員定数の削減に取り組むことを国民の前で約束した。国会というおおやけの場で。
 また、これに合わせて前々から指摘されていた一票の格差の問題も解決するとして、選挙区の区割りを見直すことも約束した。国民の眼の前で、胸を張って。
 
 ところが、政治家という実入りの良い仕事を一度手に入れてしまうと、周りから先生、先生と持ち上げられてしまうと、その身分を手放したくなくなるようだ。それは与党も野党も同じだ。そして、彼らの間では定数問題には触れないでおこう、選挙区の区割りには触れないでおこうという暗黙の了解が出来上がる。
 彼らは言う。議員定数の問題は極めて重要な問題である。何故なら国会議員は国民の代表だからである。幅広い国民の意思、つまり民意が正しく国会に届くようでなければならない。選挙区割りも同じである。国内のそれぞれの地域の民意が正しく汲み取られなければならない。
 議員定数と選挙区割りについて、現状に問題があることは十分承知している。そのため早急に改革に取り組まなければならない。しかし、一方で国民にとって極めて重要な権利である選挙権が損なわれることがあってはならない。そのためこの問題は慎重な上にも慎重に議論、検討することが重要である。むにゃむにゃむにゃ・・・


9.画外
 「北海道か、いいな。とにかく画内は人間の住むところじゃない。そりゃ画外に出れば小さいトラブルとか摩擦は多いかもしれん。でもな、それこそが人間として生きている証だし、そうした中に生きている面白さもあるんだ。つまり画外でこそ生きているということを実感できる。バーチャルなんだよ画内は」
 「バーチャルね。高度に管理され、制御された箱庭での人間ごっこかもね」
 「そういうことだ。画外の方が人間臭いし絶対面白い。ニューカマーの連中はどうして好き好んで画内なんかに住みたがるのかね。仕事の都合なら分からんでもないが」

 「画外といえば、羽田に到着したらすぐに君からメールが入ってね。メールに気を取られて危うく画外に出そうになった。急に止まったら女の子にキャリーバッグを思い切り脚にぶつけられてね。焦ったよ」
作品名:画-かく- 作家名:芳野 喬