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画-かく-

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 3Kと言われたこれらの仕事を担ってきた外国人たちは日本からいなくなっていた。経済発展著しい母国に帰ってしまった。日本で差別的な扱いに悔し涙を流す必要はない。これからは母国か、母国がだめなら他の新興国に行って一旗揚げられるのだから。そして、3Kの仕事は日の当たらない日本人たちの手に戻ってきた。
 
 3Kの子供として生まれた日本人たちに十分な教育が与えられることはない。引く継ぐ資産などあるはずがない。借金がなければ幸いだ。そんな子供たちも大人になる。そして、親たちと同じように日の当たらない職場に勤めることになる。生まれる前から決められていた運命をただ歩いて行くだけだ。そして貧困の連鎖が永遠に続いていく。もしそこから抜け出せる道があるとすれば、天才的な頭脳を持つ子供、天才的な芸術の才に恵まれた子供として生まれ落ちるか、3Kの親に捨てられて資産家に拾われることくらいだ。


7.相互監視
 「ニューカマーって何だ?」
 「ニューカマーだよ。そうか、君は北海道人だから知らないか。画外から新しく1種として画内に住めるようになった人たちのことだ。頑張って稼いで、目出度く画内入りを果たしたんだ。皆さん胸を張ってる。鼻息荒いぜ。億ションに住んでる人が多いな。勿論1億円ギリギリなんていうのは稀で大体は倍近い」
 「そうか。じゃあ庶民は画内には住めんな。君は画内に住んでるのか」
 「ああ、仕事があるからね。画外に住むと職場に来るのが不便で。今は山谷に住んでる」
 「山谷?山谷ってあの山谷か?」
 「そうだあの山谷だ。でも、今は昔の山谷じゃない。名前も「北斗」というんだ。で俺のところは北斗5丁目」
 「北斗?なんだそりゃ?」
 「あの辺りはメタン景気以降、一番変わったエリアの一つだよ。画ができて完全に別の街になった。つまり浅草から北側、三ノ輪辺りまで一旦全て更地にしたんだ。それでゼロから街を創り直した。今じゃ一応高級住宅街ということになってる。名前も北斗で出直しましたって訳だ。皇居から見て丑の方角だから丑町という案もあったようだが、さすがに古臭いので却下されて、北北東だから北斗に落ち着いたらしい。ただエリアが広いので北斗1丁目から北斗12丁目まである。勿論、千代田区とか港区のような趣はないし、元々が山谷、吉原だからグレードは低い。ただ街がゼロから計画的に造られてるので極めて住みやすい。価格も画内にしては手ごろだし会社に来るのにも便利だ。ニューカマーの人たちは絶対に選ばないけどな。あの連中が住みたがるのは港区か千代田区だ」
 「なるほど、知らなかった。浦島太郎だな」
 「もっとも、俺はいつまでもあそこで暮らすつもりはない。今は仕事が面白いから辞めるなんてちっとも考えちゃいないが、仕事に区切りが付いたら絶対に画外に出る。場所はまだ決めちゃいないがな」
 「そうまで嫌うかね」
 「こんな管理社会は真っ平だ。戦前の日本やドイツ、戦後のソ連みたいなもんだ。もっとも表面上はそんな強面じゃないがな。グリーンベルトがいい例だ。中央政府は巧妙だよ」
 
 「グリーンベルトね。今日初めて完成したものを見た。コンクリートの壁よりはましだけど寒々しい風景だった。しかし、いろいろあったよな境界の整備については。農務省も関係ない訳じゃなかったけど、お互い巻き込まれなくて良かった」
 「そうだな。画を設けること自体が大問題だけど境界をどうやって区切るかということも色々議論があった。俺はもう役所を辞めてたから高みの見物で面白がっていただけだ」
 「そういえば、最初は高さ7〜8mのコンクリートの壁で囲うというのがあったね。境界を守る効果という意味では簡潔明瞭だしね。建設用地が狭くて済むから土地収用の負担が比較的小さいし工事期間も短縮できる。予算的にも有利だというのも役人的には説得力があった」
 「そうそう、しかしな。東西冷戦の時代とかイスラエルの入植地じゃあるまいし、コンクリートの壁じゃいくら何でもイメージ悪すぎるだろう。結局、あの案は早々にボツになった。壁よりグリーンベルトの方が民主的だなんて訳の分からないこという野党議員もいたがな」
 「あとコンクリート壁を主張する議員の中にセメント業界から献金をもらってるのがいたろう。国会で問題になって、あれで流れはできたね」
 「緑の少ない東京の緑化に貢献するとか、ヒートアイランド現象を軽減するとかで結局、環境にやさしいグリーンベルト構想に一件落着したという訳だった。何が環境にやさしいのかよく分からんが」
 
 「でも、あの頃も問題になったけど、グリーンベルトと言っても要するにやたら長い芝生広場だろう。あれで画内の治安が守られるのかね」
 「それが中央政府の巧妙なところさ。見てのとおりグリーンベルトは一見ソフトだよな。でも、今じゃ機能を十分果たしてる。何故だか分かるだろう?」
 「相互監視システムという奴か?」
 「そのとおり。国民カードと「相互監視通報システム」だよ。国民カードは日本人なら皆持ってるしな」
 「ああ、何にでも使えるから便利だしね。最初は抵抗感あったけど今は当たり前になった。落とすと何もできなくなるからその方が心配なくらいだ」
 「そうだよな。だから国民カードを居住権とか入画許可の証明証として利用することも特に問題にならなかった」
 「そうだね。僕も東京にいた頃カードに居住権を入力してもらったけど、まあそんなものかなあという感じだったし」
 「君はノー天気だからな。勿論正規に手続きしているから何の問題もないけど。もし、正規の手続きをしないで画内のコンビニで買い物でもしてみろ、監視カメラに追い回されて即刻逮捕だぜ」
 「怖いね」
 「国民カードの怖いところさ。これに加えて相互監視通報システムだからな、なかなかガードは固い」
 
 「相互監視システムね。僕がまだ東京にいる頃に始まった。あのハロウィーン事件の後もテロが続いて、全国でテロ対策が強化されたのが始まりだったよな」
 「そうだ。あの頃は街中のあちこちに警察官が立って。劇場とかでも手荷物検査がうるさくなった。飛行場の手荷物検査なんかテロ前に比べて通過するのに30分以上余計に掛るようになった。東京は厳戒態勢という感じで特にひどかったな。あちこちにパトカーや装甲車が停まって、路上で職務質問受けている奴を結構見た」
 「大きなのはなかったけどテロが続いたからね。街中ピリピリしてた」
 「警備当局もなりふり構ってられなかったんだろう。ナーバスになってる画内の居住者を看視体制に取り込むなんてな。居住者が不審者を見つけたら警察に通報するシステムを導入するとはうまく考えたものだ」
 「そういえば僕の家にもお巡りさんが来て、通報システムのパンフレットを置いていったよ。ハロウィーン事件があったのも霞が関からそんなに遠くなかったし、まあテロとか犯罪を防止するためなら仕方ないのかなと思ったけどね」
 「ははは。さすがノー天気の芳野らしいな。まあ、東京都心部の住民の大体は抵抗感なく通報システムを受け入れたようだしな」
作品名:画-かく- 作家名:芳野 喬