WonderLand(下)
日本では性転換手術は大々的に行われていないが、本当に希望する人たちは海外へ行くか、または違法で手術を行う医師に掛かるのだという。ただ性器をなくすだけでなく、そこに新しい性器を作ることも可能なのだという。ただ、それがきちんと機能するのかと云えば、それは怪しいところらしい。膣を作ったからといって、実際の女性と同じようなセックスができるかというと、そういうわけではないそうだ。人工的に膣を作ったとしても、そこは本当の女性器のように濡れたりすることはないと云う。
後から刑事やマスコミから伝えられた話によれば、ウサギは性器をなくすだけでなく、人工膣も作っていたそうだ。その手術のための費用を、学生時代に水商売で稼いだと云う。ゲイバーや男専門の売春など、本当なのかどうなのかわからないような内容の記事をたくさん目にした。ウサギという特異な存在は、一般大衆の興味を大いに引いたのだった。何が真実で何が嘘なのか、今はもう、それを確かめる術はない。
ウサギと父との関係は、父が度々ウサギとホテルを利用していたことから、不倫関係と報道された。しかし、ウサギがもともと男であるとわかると、その内容は好奇に書きたてられた。しかし、父が実際どういう趣味であったのか、何も知らずに付き合っていたのか、どういうつもりでウサギと付き合っていたのかは、当人が死んでしまっているのだから、これもまた確かめようがないだろう。
あたしは、父はウサギが男であることを承知で付き合っていたと思っている。
今になって、あたしはウサギがいつも情事の際、電気を消したがっていた理由を知った。そして、電気を消してと云った際、父がよく云っていたのは、「私は君を受け入れているのに」という言葉だった。そのときは深く考えなかったけれど、男の身体だったことを受け入れている、という意味だったのではないかと、今は思う。
しかし、年齢と共にウサギや父のことを理解していっても、もうずっと遠い過去の話でしかない。
それらの理解は、あたしに虚無以外の何者も与えはしない。
あれから月日が経った。
もともと父を殺したのはウサギであり、それに憤慨したリリーさんがウサギを殺した、という認識から、また自首をしたことが情状酌量の余地ありとされ、リリーさんは比較的軽い判決を受けた。懲役五年、リリーさんは今、刑務所で刑に服している。
作品名:WonderLand(下) 作家名:紅月一花