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WonderLand(下)

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 刑事にそう聞かれて、あたしは初めて、リリーさんの本名を知った。同時に、ウサギの本名も知った。
 あたしはそう聞かれても、何も答えなかった。
 リリーさんの店から父の性器が発見されたこと、犯行に使われたカッターナイフを押収したことで、リリーさんの自白により、あたしは容疑者から外されることになった。あたしの、父の血のついた衣服や、カッターナイフについているはずだった指紋がどのように処分されたのかを、あたしは知らない。ただ、リリーさんの自白によって、あたしは容疑者から、年上の女性に脅迫され、父親を殺害された可哀想な被害者になったことだけは事実だ。
 残されたあたしたち家族は、滅茶苦茶だった。
 被害者であっても、根も葉もない噂を焚き付けられたりするなど、しばらくの間マスコミに追い回される日々が続いた。家族は遠い親戚のもとに身を寄せることになった。
 あたしは、一人病院に入院することになった。
 父から受けた傷の治療のためと、脅迫・父親の殺害と精神的ダメージが大きいと判断されたためだった。
 あたしは事件のこと、ウサギのこと、父のこと、あらゆることをあらゆる人に尋ねられた。しかし、あたしは一度として口を開くことはなかった。今現在まで、あたしはそのことを一言も口にしたことはない。
 退院すると、母は、あたしに家へ戻ってきなさいと云った。
 しかし、あたしは母から、家族から離れる道を選んだ。まだ小学生のあたしは、本来であれば母の元へ戻るべきなのであるが、話し合いの末、あたしは施設へ入る道を選んだ。
 あたしは、父も母も憎んではいない。でも、あたしはもう戻ることはできなかった。あたしは出て行くのではない。去っていくのではない。元居た場所へ、帰るだけなのだ。
 そう、帰るだけなのだ。
 年を重ね、様々な知識を身に付けていくにつれて、色々なことがわかってくるようになった。
 性転換も、その一つだ。
作品名:WonderLand(下) 作家名:紅月一花