WonderLand(下)
児童施設に居られるのは、十八歳までだ。あたしは今年の三月、この施設を出て行く。そして、今年の八月、リリーさんが刑務所から出てくる。
あたしは児童施設を出た後、就職することになっているけれど、リリーさんが出てきたら、リリーさんの元へ行こうと思っている。主をなくしたWonderLandは、もう今はない。でもきっと、あたしたちはあの街へ戻るだろう。あの街でなくても、全国にある、陰の連鎖によって生まれた日陰の街に、身を寄せるだろう。
あたしはもう、不思議の国に導かれたかつてのアリスではない。
あたしはきっと知っている、もうアリスに戻ることができないことを。
今度はあたしがウサギと成っていくことを。
一度陰の世界に身を寄せた人間は、陰の中でしか生きていくことはできない。その運命を、あたしは呪ったりなどしない。存在したときから、そうなるようにできていたのだ。
ウサギと成るために、あたしは生まれてきたのだ。
光は陰があってこそ、初めて存在する。
あたしは、その光を輝かせるための陰と成ろう。
サヨウナラ、アリス。
コンニチハ、ウサギ。
作品名:WonderLand(下) 作家名:紅月一花