WonderLand(下)
それでも、ウサギはその手を止めることなく、リリーさんの口を無理矢理こじ開けて、父の性器をその口に捩じ込んだ。
「ほら、しゃぶれよ!おまえの好きなチンポだろ!ケツに入れんの好きなんだろ!しゃぶれよ!しゃぶれよ!あの日みたいに、ケツに突っ込んで喘いで見せろよ!」
しゃぶれよ!しゃぶれよ!しゃぶれよ!しゃぶれよ!
ウサギは笑っていた。これまでで一番、高らかに笑っていた。人形が笑っている。
そして、泣いていた。
耐え切れなくなったリリーさんが、ウサギの身体を振り払って口に捩じ込まれていた性器を吐き出した。ウサギはバランスを崩し、リリーさんの横に倒れ込む。口から性器を吐き出したリリーさんは、ひどく咳き込んで、黄色い唾を口から垂らした。
あたしはただ、黙って見ていた。怖いとか、悲しいとか、そういう感情ではない。自分が本当に其処に存在しているのかさえ、あたしには確信が持てなかった。
ウサギはその体勢から再びリリーさんに掴みかかり、落ちた性器を掴んで、再びそれをリリーさんの口に捩じ込もうとした。リリーさんはウサギの腕を掴み、そのままウサギを捻じ伏せた。それから、唾を垂らした口から、ぜいぜいと息を漏らした。
「タケル」
タケル、その言葉を聞いたとき、あたしは思わず部屋の外を振り返った。しかし、其処には誰も居ない。しかし、リリーさんはもう一度強く、「タケル」と云った。捻じ伏せられたウサギの目を、しっかりと見つめて。
「タケル、アンタがあたしを憎むのは勝手だ。殺したいなら、殺せばいい。でも、この子は関係ないはずだ。この子は、何の関係もないじゃないか」
あたしは、目の前で何が起こっているのかわからず、ただ呆然と二人を交互に見比べていた。
かつてのあたしの息子だった、リリーさんはタケルについてそう云っていた。でも、目の前に在るのは、美しすぎる若い女の姿だ。
「関係ない?」
ウサギは大声で笑った。口角だけを異常に釣り上げて、その目は微動だにともしないままに、高らかに笑った。
「関係ないことなんてねぇんだよ!これはおまえみたいな腐った人間がいる結果なんだよ!腐った人間は連鎖して腐った人間を造る!根源を絶って何が悪い!何が悪い!何が悪い!何が悪い!何が悪い!」
作品名:WonderLand(下) 作家名:紅月一花