WonderLand(下)
「あれはアタシの副業さ。男にケツ売って一万、安いもんさ」と、リリーさんがいつか云っていたのを思い出す。この中年の男は、リリーさんの客なのだろう。
ウサギはその様子に臆することなく、中へ土足で入っていった。中年男の顔が、恐怖に引きつっていくのがわかった。
「ねぇ、リリー。お土産を持ってきたのよ。あなたにぴったりの、素敵なお土産」
リリーさんからは、感情が読み取れなかった。ウサギはすごく楽しそうに、笑いながら鞄を開いた。
取り出したのは、あの綺麗なハンカチ。父から切り取った男根を包んだ、あのハンカチだった。ウサギはそれをバラの花びらでも取り出すかのように優雅に開いて、出てきた血まみれの男根を、リリーさんに投げて寄越した。
「ひっ」
声を上げたのは、リリーさんではなく、中年男の方だった。男もリリーさんも、おそらくそれを見てすぐに何たるかを悟っただろう。中年男は慌てて衣服を掻き集めて腕に抱えると、あたしを押しのけて走って外へ出て行った。カウンターの前で足を絡まらせてこけそうになりながらも、逃げることに必死なようだった。ウサギは、そんな男に見向きもしなかった。
リリーさんは、黙って自分の股のところに落ちたそれを見つめた。ウサギが楽しそうに続けた。
「あなたの好きなチンポよ。好きでしょ、チンポをケツに突かれるの、アンタの趣味だもんねぇ」
それまでは穏やかだったウサギの言葉は、なんとなく変わったような気がした。
「くわえなさいよ。そのチンポ、勃たせなくちゃ、ケツの穴に入んないわよ。ほら、しゃぶりなさいよ」
生体から切り離された性器だ、いくら口に含んだところで一度なくした命を取り戻すはずがない。そんなことは、誰の目から見ても明らかだったし、ウサギだって承知の上のはずだ。それでも、ウサギはリリーさんにその男根をくわえろと、激しく詰め寄る。リリーさんは、あたしを見た。その目には影が落ち、憂いに満ちていた。その性器が誰のものであるのかを、リリーさんは悟ったのだろう。
「しゃぶれって云ってんだろ!」
急に人が変わったかのように、ウサギは怒鳴り声を上げた。次の瞬間、ウサギはリリーさんの股のところに落ちたその性器を手に掴んで、リリーさんの口に押し込んだ。その勢いに、リリーさんが後ろに倒れ込む。同時に、ウサギも前のめりに倒れ込んだ。
作品名:WonderLand(下) 作家名:紅月一花