「もう一つの戦争」 最終章1.
「私は今から七十年未来の西暦2015年、平成二十七年から気が付いたら昭和十六年に伊豆に来ていました。直前に祖母から生い立ちなどを聞いていたので、自分の運命を変えようとこちらにやってきましたが、夫の命は救えませんでした。その祖母の話から私はもうすぐ事故で命を失うことになっています。運命を変えることは出来ませんが、未来ある美幸だけはその平成の未来で事故死することなく一生を全うしてほしいと強く願っています。そのために自分はもう少し生きたいと考えるようになりました」
「何ということ・・・美幸ちゃんは未来ではあなたのお祖母ちゃんだということなの?」
「そう考えています」
「そんなことがあるだなんて・・・おばあちゃんは何故亡くなったの?」
「はい、大きな地震で一緒に居た温泉施設が倒壊して亡くなったと思います。私は気が付いたらこの時代に来ていましたから」
「では、確実に亡くなっていたとは解ってないのよね?」
「ええ、そう言われるとそうですが」
「本当は無くなったのはお祖母ちゃんではなくてあなただったのかも知れないよ」
「私が?死んでいたということ・・・」
「そうだとしたらこの世界に来た理由が解るでしょう?おばあちゃんはそれなりに幸せに暮らしていたのでしょう?かわいい孫のあなたを死なせた辛さを天にお願いして魂を甦らせたとしたら、解らなくはないと思えたの」
「何故昭和十六年だったのでしょう?理由がわかりません。そうだとしたら少し前の時代で良かったのだと思えますが」
「ううん、おばあちゃんはね、あなたが母親として美幸ちゃんを育てる楽しみをくれたの。若くして死んだ孫の無念をこの時代で甦らせて、幸せとは何かを教えたかったのよ。だから聞いていた運命を変えてほしいとこの時代に連れて来られた、そう考えたら?」
作品名:「もう一つの戦争」 最終章1. 作家名:てっしゅう