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からっ風と、繭の郷の子守唄 11話~15話

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 立て続けにとうもろこしを平らげた貞園が、満足そうに目を細める。
「もう満足。トウモロコシで腹いっぱいになったなんて、
生まれてはじめてです」
微笑みを見せる貞園に、「そいつは良かった」と赤いシャツの男が笑う。
焼きたてのトウモロコシを、五六が次々にビニール袋へ詰め込んでいく。

 「こいつは青い服の店長へ、お土産だ。
 座席の下の収納スペースへ放り込んでおいて、持ち帰ってくれ。
 ちゃんと届けてくれよ。お姉ちゃん」


 「ありがとう。
 顔は見るからに怖いけどあなたって、本当は紳士なのね。
 よかったわ。康平くんのお友達が、みんな優しい人たちばかりで」


 「なかなか面白い事を言うおねえちゃんだな。
 俺の名前は、五六(ごろく)。
 6人兄弟で5番目の男の子という意味だ。
 酔っぱらったオヤジが面倒だからと、適当につけた名前だ。
 冗談みたいな名前だが、それでも最近はそれなりに気に入っている」


 「ユーモアたっぷりのお名前です。
 康平とあなたって、小さな頃から仲が良かったのですか?」

 「俺たちは、ガキの頃から近所で育った。
 2人ひと組で育ったようなものだ。
 俺がグレて、テキ屋の世界に足を踏み入れた時、山ほどいる同級生の中で、
 いままで通り付き合ってくれたのは、康平だけだ。
 付き合い始めてかれこれ30年。俺たちは兄弟のように生きてきた。
 ところでそういうお前さんは、いったい、いつから康平と
 付き合っているんだ」


 「あら。わたしたちは、たったさっき行き会ったばかりです。
 迷子になった私を、広瀬川まで案内してくれたのがはじまりです。
 スクータで買い出しに出かけるというから、面白そうだと着いてきました。
 いつの間には、こんな山奥で焼きトウモロコシを食べる羽目に
 なっちゃっいました。」


 「なんだって。あの康平が、お前さんをナンパをしたのか・・・・
 へぇぇ。信じられん話だな。
 お姉ちゃん、ちょっとこっちへ来てくれ。すこし内密の話がある」

 
 「内密のはなし?」


 「こっちだ」と五六が、屋台の裏側を指さす。
康平は離れたところで、スクーターの点検をはじめている。
そんな康平の様子を横目でたしかめた貞園が、五六に呼ばれるまま、
屋台の裏側へ回りこんでいく。
裏で待機していた五六が、ポケットをさぐり、タバコを取り出す。
あわてて火をつけると、煙を思い切り、胸の底まで吸い込んでいく。


 「あのなぁ。
 康平という男は、女に関しては昔から奥手なんだ・・・・
 アレルギーみたいなものを、持っている。
 高校時代に、好きになった女学生がいたんだ。
 だがいつまでたっても告白することができず、悶々と過ごしていた、
 暗い時期があった。
 卒業後。その女学生は、県外に就職してそのまま行き先が不明になった。
 それでもあいつはその女のことが忘れられず、いまだに
 未練を持ちつづけている。
 そんな康平が、おねえちゃんに声をかけるのは、晴天のヘキレキだ。
 2輪の後ろへ女を載せるなど、ありえない話だ。
 康平が別の女を連れてくるのを、俺は生まれて初めて見た。
 今でも、びっくりしたままだ。
 あんたたちはもしかしたら、運命の出会いというやつかもしれねえな。
 大事に付き合ってくれ。いい男だ、康平は。
 悪いなぁ、無理に引き止めちまって。話はそれだけだ」


 「康平クンには、意中の人がいるの。へぇぇ・・・
 私なら、意中の人を乗り越えられるという意味かしら?
 責任重大ですねぇ。よし、この貞園が康平クンを誘惑しちゃおうかしら、
 うっふっふ」