からっ風と、繭の郷の子守唄 11話~15話
「どうだ。簡単だろう、お姉ちゃん。
プロはこうやって仕事をする。
露天商の見習いの頃、先輩達から教わったむき方だ。
鮮度のいいトウモロコシを、速攻でむいたら、すぐに焼き始める。
遠火の強火ってやつが一番いい。
まず最大火力で、2~3分くらい焼く。
焼きムラがないように、少しづつ回転させながら焼きあげる。
あとは火力を弱くする。それが無理なら、火からトウモロコシを遠ざける。
大きさにもよるが、12分から15分ぐらいで焼き上がる。
仕上げに、刷毛で、しょう油をたっぷりと塗る。
ここが、この仕事の一番の肝心な部分だ。
醤油はケチらずに、つけすぎるくらい、たっぷりと刷毛で漬ける」
「あら。そうすると大量に醤油を消費することになりますねぇ・・・・
赤字になりませんか、たっぷり醤油を使ったら。
儲からないと困るんでしょ、テキ屋さんのお仕事は?」
「おっ、お姉ちゃん、良い質問だ。
焼きトウモロコシは、実は、焦げた醤油の香りを嗅がせて商売するんだ。
客を屋台に引き付けて、なんぼの世界だ。
トウモロコシというやつは、いくら焼いても大した代物じゃねぇ。
甘いわけでもないし、インパクトも無い。
テキ屋が露店で売るには、不向きな商品なんだ。
そこで考え出されたのが、醤油を焦がして、香ばしくするという方法だ。
焼いているうなぎの香りを、店先に流しているウナギ屋と、
まったく同じ発想だ。
醤油をつけずに、焼き上がったトウモロコシがここにある。
食ってみな。採りたてのトウモロコシは、醤油なんてものは必要ないのさ。
醤油はあくまでも、お客を集めるための演出だ。
商売の裏側なんて、そんなもんだ。
どうだ。炭火で焼いただけでも、俺のつくったトウモロコシは旨いだろう」
「ほんと。目からウロコです!
甘いし、柔らかい。みずみずしい上に、食べごたえがあって美味しいわ」
「当たり前だ。ものも違うんだ、お姉ちゃん。
このあたりで栽培しているトウモロコシは、生でも食える品種ばっかりだ。
あ、おっといけねえゃ・・・・
初めて会ったばかりのお姉ちゃんに、商売の裏側をばらしちまったぜ!」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 11話~15話 作家名:落合順平