小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
わたなべめぐみ
わたなべめぐみ
novelistID. 54639
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

深淵の流れ

INDEX|9ページ/13ページ|

次のページ前のページ
 

影 ―しゃどう―



熱いほおに流れ落ちる雫
つまる胸かかえて 丘をかけ登った
大空にこだまする ぼくの声は
夏の香りのする君を 呼んだのだろうか

君はただ微笑んで ぐずるぼくの手をひき
傷ついたほおに 冷たい水と 手のひらの温もり

この地に来てから 閉ざされた心に
君はやわらかな風をまきあげ

君と見上げた あの日の空は
なみだ雲流れる 透きとおる空

ぼくの親に生きうつしの君
2人に歓迎されて 照れくさそうに笑った
何故か父は 最近見せなかった
穏やかな顔で 幾度も君の名を呼んだ

そう遠くない別れに 君も気づいていて
戸惑うしか出来ないぼくを強く抱きしめた

時折 君はぼくに見えぬ場所 眺め
そのまま風の中に 消えてしまいそうで

変わらぬ明日が来ること 信じて
ほほ押さえ 見上げた あかね色の空

父が笑ったとき 光射しこんで
ぼくらの手をとり 「強く生きろ」と
それが最後の言葉

その日の昼下がり 2人丘に登って
壊れた竹とんぼを 空に飛ばした

夏の夕暮れ 影を重ねると
夕焼けと君が共に 消えていった空

あれから ぼくも君と同じ歳になり
懐かしい風に誘われ 丘を登った

ぼくが見上げた この地の空は
なみだ雲流れる 透きとおる空


作品名:深淵の流れ 作家名:わたなべめぐみ