嘘と演技
「あら、あなたは私の親友。ようこそはるばる迷いの森へ。私は暗い籠の中。魔法使いに閉じ込められ、出ていこうにも出られやしない。困った。困った。あやめがいるのに、あと一歩から抜けられない」
「さくらさん、変な冗談はやめて。あなたは未成年ではないのよ。このままだとあなたは殺人犯になってしまうのよ。何か言いづらいことがあっても、はっきり言わなきゃ。ほら、この方弁護士さん」
「どうも、弁護士の結城です」
「この人もさくらさんの無実を信じてるの。助けになってくれるのよ。だから本当の事を話して頂戴。変なお芝居はやめて」
「演技だなんて。私はいつもこのままです。あの橋を架けるまでも真剣そのもの。いつだって、間違ったことなどしてません」
「私達の演劇『あの橋を架けるまで』もさくらさんが大活躍したじゃない。あの頃に戻ろう。また私達と笑いあおう」
「そうはいっても出れません。私は私は迷いの森の眠り姫。一生このまま眠ります。みなさんたくさんありがとう」
私はボソッと、
「無理だな。彼女に何を言っても。どういう訳か。何故彼女は何も話さない。精神疾患をわざと装ったら極刑にもなりかねないのに」
「さくらさん、お願い。何か話して。またあの頃の様に笑いあいましょう。さくらさんと『あの橋を架けるまで』の劇を撮影した後、みんなでDVDを見た時、セリフの間違いがあって笑ったじゃない。よくあんな難しいセリフが全部完璧で簡単な言葉を間違うなんてさくらさんは面白い人ねって先生も言って…
「私間違ってなんかいないわよ」
その時だった。明らかに先程と口調が違う。私が箱根で見た、あのまともなさくらさんだった。演技をしているさくらさんじゃない。
「いつだって間違っていない。いつも完璧な演技だったわ。早くここから出して。私が死ぬのはいいけどクリスマスまでにここを出なければたくさんの人が…」
私は飛びついた。
「さくらさん。それで犯人は誰なんだ?クリスマスに何が起こるんだ?さくらさん!」
さくらさんはまたうなだれる様に下を向き沈黙をしてしまった。
あやめさんが
「さくらさん…」
そう声をかけたがさくらさんは、
「私は私はかごの鳥。迷いの森から抜けられない。あれまあ本当にどうしよう」
「面会時間が過ぎています。こちらへ」守衛が私にそう言った。
「また、振出しに戻ったか…」