嘘と演技
私は次の日の土曜日は、さくらさんのいる小菅の東京留置所へ向かった。比嘉あやめさんと待ち合わせをするため土曜日を選んだ。あやめさんは休みであるのにセーラー服を着てやってきた。
「やあ、あやめさん」
「こんにちは。弁護士の結城さん。待ちましたか?」
「いや、今来たばかりだよ。それより君はいつもそう制服姿なの?汗もかいてるよ。走ってきた?」
「いえ、汗はちょっと…制服は私はこの後用事があるから」
「部活動かな?」
「いえ部活動には入っていません。演劇のサークルに入っているんです。土、日の午後と平日は水曜日以外サークルがあるのでほとんど部活動の様なものです。そこで私はさくら先輩と知り合ったのです。
「あっ。だから制服が違うのに友人なのか」
「君達は制服に忠実みたいだね。さくらさんなんか高校を卒業しても制服を着ている」
「いえ、さくらさんは高校をまだ卒業していません。2年間留年していますから、まだ私と同じ高校3年生です」
「それは病気の事で?」
「そうです。彼女が18の時、鬱を発症して、休学を繰り返しています。たまに演劇のサークルには顔を出しますけど、さくらさんは普段は状態が悪くても、このサークルに来ると落ち着くみたいで、やっぱさくらさんにとっての居場所なんですね」
「そうか…それはそうと彼女のところに面会に行こう。彼女は何かを知っている。犯人をこの目で見たのかとさえ思ったりする。彼女の狂った姿も演劇部で培った演技なのかな?」
「さあ、それは分からないけど、さくらさんの腕前だったら、あれ位のアドリブ造作もないことだわ」
「ありがとう。そういうことも重要な証言材料になるよ。それで君は犯人の目星はついているのかな?」
「それは…さくらさんに聞けばはっきりするんはないですか?」
「ああ、そうだね」
私達は留置所に向かった。面会の為の用紙に名前を書き、私ら二人は本条さくらさんの所へ誘導された。
あやめさんはさくらさんを見るなり、
「さくらさん」
そう呼んだ。