嘘と演技
「もしもし」
私が出ると、
「もしもし私です。野副由季花です」
「野副さん!」
松井も「野副さんか」そう声を大にして言った。
「あの…私…すいません。この間は逃げてしまって。今何か胸騒ぎがするんです。何か大切な事が起きようと。何か大切なものが生まれるか死ぬかのほどの胸騒ぎが…ひょっとして私に何か手伝えることがありますか?」
「ああ。是非お願いしたい。さくらさんを説得してもらいたい。今ある事情があってさくらさんは俺の自宅に来ています。私の自宅に来てもらえませんか?住所は横浜市……」
「分かりました。40分程でそちらに向かうと思います。では」
私達はまたさくらさんに話しかけたがこの堂々巡りはさくらさんを疲れさせるだけだと思いしばらく静かに野副さんを待った。
時刻は9時を回り9時20分になった時インターホンが鳴った。野副さんだった。
「野副さん。待ってました」
「すいません。この間は逃げたりして。私自分のやっている事が法に触れる様な事だと思い怖くなって…」
「いいんです。それよりさくらさんと話を。こちらへ」
私はさくらさんの秘密をあやめさんから聞いた通り野副さんに話した。野副さんは別段驚く事もなく、
「私が気づかなきゃいけなかったのよね」
そうポツリとつぶやいた。さくらさんに会い、
「さくらちゃん」
「野副先生」
「どう?調子は」
「今は調子は良くありません。父の話をして…」
私は今までのいきさつ、これから本条の社長室からデータを取りに行くこと。またさくらさんが一旦は私達についてきたが、加担してくれず、父を守ろうとしている事を野副さんに話した。
「分かったわ。さくらさん。これから私の話を聴いてくれる?」
「社長室に入る話でなければ聴きます」
「そう。じゃあ今日は社長室に入る話はしない。だから今日は私の話を聞いて」
「はい。分かりました」
野副さんは私の方を見て、
「時間がないようだから少々荒っぽいカウンセリングをやるかもしれないわ」
「うん。宜しくお願いします」