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嘘と演技

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「どうしたんだ?あやめさんはなんて?」
「彼女はロシアに旅立ちます。まもなく」
「そうか。あやめさんがついにロシアに…」
 そして私達はまたさくらさんに働きかけた。
「あなたの人生なのよ」
「そんなの分かってます」
 その堂々巡りがまた続いた。
 松井が
「待ってくれ。さくらさんあなたは父に何か悪いという気持ちがありますか?悪事を表ざたにすると、お父さんが可哀想と」
「お父さんが可哀想…はい。そういう気持ち…私にあります」
「可哀想なんてさくらさんの方がずっと可哀想よ」
 由美が言ったが松井が続けて、
「さくらさん。君はお父さんの過去を知っている。違うか?」
「………はい。知っています。」
「本条則明の過去?なんだそれは?」
「さくらさん。みんなに話していいかな?」
 松井がさくらさんにそう尋ねた。
「構いません」
「これは本条則明について頼まれた通り、調べて分かった事だが、本条則明は養子だった。血の繋がっていない親に育てられている。彼は秋田の部落で生まれ苗字が何度も変わっている」
「名前が何度も?」
「彼は何度も捨てられ続けたんだよ」
「転々として何度も親が変わった?」
 私がそう訊いた。
「そうだ。最後にたどりついたところは青森で彼はそこでは捨てられまいと勉強も運動も相当頑張って苦労をしたらしい。学校では子供のなかった夫婦から急に小学生の子が現れたので、
『やあい。もらいっこ』
と、いじめを受けていた。そのたどり着いた親からもまともな愛情を受けていないらしい。近所の人の話ではしつけとして、『よそに捨てるぞ』などと言う言葉で叱ったという。およそ子供らしくない勘の鋭さと頭脳明晰さを持った子供だったという。その部落出身として初めての東大入りを果たしたそうだ。おそらく彼は心の隙間を埋めようと常に何かの活動をしている。世のため人の為。その手段の残虐さは彼の過去の反映とも取れる」
 私は今まで本条則明に抱いていた違和感、それは気品と下品さが入り混じっている、それに気が付いた。
「そうなのか?さくらさん」
 私が尋ねた。
「そうです。私は思春期から身体を売る事になり同時に父の過去が知りたくて、青森の父の実家の祖父や、そこの近所の人から聞いて父の過去を知りました。そうしたら余計に父の事が逆らえなくなって」
「でもこれとそれとは違うのよ。さくらちゃん」
 由美がそう言った。
「とにかく私にはできないんです。私も穢れているのです。これは私の意思です」
 時計が8時に指しかかろうとした時、また携帯が鳴った。
作品名:嘘と演技 作家名:松橋健一