嘘と演技
「分かってる。あなた達が正しくて、父は人の道を反する類の人であることも」
「じゃあ」
私が言った。
「お父さんも悪いけど私も同じよ。私もお父さんと同じ血が流れていて、私自身も穢れていて。世の中の政治の黒幕になって。私は穢れているんだわ」
「それは違うわ。さくらちゃん」
由美がそう優しく言ったが、
「あなた達に何が分かるのよ…」
そうさくらさんは叫んだ。
私達は黙ってしまった。
「まいったな。ひとまず松井も呼ぶCD―ROMはどうなったか」
私は松井に電話をして家に来るように呼んだ。
「10時ほどでそっちに行く。悪いがCD―ROMは手に入ってないし、追いかけてたやつもつかまらない」
「分かった。とにかく来てくれ」
そうして私と由美はさくらさんに働きかけた。
「お父さんのやっている事が悪いことだってのは分かる?」
由美が訊く。
「分かります」
「じゃあさくらさんは正しい方向に向かいましょう」
「それができないんです」
このような会話が繰り返され堂々巡りをするだけだった。
「どうしてできないんだ」
「できないからできないんです」
一時間がたち松井が来た。
「おお、松井」
「CD―ROM手に入らなくてすまん。そこにいる彼女はさくらさん?」
「そうだ」
私は一連の脱出劇を話した。
その時携帯が鳴った。あやめさんだ。
「もしもしあやめです。さくらさんに代わってもらえますか?」
「さくらさん。あやめさんから電話が…」
「もしもし私さくらです」
さくらさんが電話に出た。
「今羽田にいるの。守衛さんに私はさくらさんじゃないって言って出てきて、さくらさんが戻るまで待ってくれと言われたけど走って逃げてきた」
「そう。無茶するわね」
「それでロシアの相手方に会うにはどうすればいい?」
「危険よ。止めた方が…」
「お願い。教えて」
「分かったわ。言うね。まずモスクワのシェリーホテルに行って頂戴。その玄関で立っていて、『Are you are jap?』と聞いてくる男がいるの。そうしたら、
『Yes I am justice』と答えて。それが合言葉」
「分かった。ありがとう」
「無事を祈るわ」
「じゃあ」
「じゃあ」
さくらさんが電話を切った。