嘘と演技
彼女は彼の名前を手帳に記入しながらそう言った。刑事の屋久島は訝しげな表情をして去って行った。
取り残された私はそっと隣のこの女の子の方に目をやった。彼女の眼は煌々とさせ、そしてまた悩んでいる様であった。私は彼女に対して、
「さくらさんの親友ですか?」
そう声をかけた。
彼女はゆっくり私の方を向き、
「初めまして比嘉と申します。比嘉あやめ。弁護士さんですね?」
「ああ。そうですが、それより君は何のためにそんな?」
「真実を突き止めたいんです」
「単刀直入に聞く。君はさくらさん本条さくらさんは本当に母を殺めたとお思いですか?それとも彼女は冤罪ですか?」
「やるわけないわ。さくらさんに限って。絶対」
「では君は真犯人を知っている?」
彼女は少しうつむいて、しばらく経ってから、
「いや、それは分かりません」
そう言い、それからというものの彼女は口を利かなくなった。私の方からも彼女に対して何か話しかけづらい気持ちが沸き起こった。
その時初めて私は初対面の年頃の女の子と接している事に気づかされている様だった。
「いろいろごめん。では、名刺を渡しておこうか」
私はポケットから名刺入れを出していると、
「弁護士さん。彼女の弁護を引き受けてくれますか?彼女の事をあの晩見たんでしょう?」
「聞いていたのか。ああ見た」
「さくらを無実だと信じているのなら。本気で真実を追求してくれるのなら…さくらの弁護をお願いします」
比嘉あやめという女の子は精一杯のお辞儀をした。私はふと今日のスケジュールを頭によぎり、箱根での本条親子の会話が頭によぎり、さくらさんの変貌が頭によぎり、目の前の比嘉あやめさんの顔に視線が落ち着いた。
「ああ、引き受けるよ」
私はそう言い残した。