小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

嘘と演技

INDEX|6ページ/91ページ|

次のページ前のページ
 

「おい。いい加減にしてくれ。話してくれさえすればいいんだ。君は真犯人を知っている筈だ。だから今も狂った真似をしている。重い精神疾患を患っていれば刑が軽くなるから。君が引き受けようってのか。そんな馬鹿な事を考えないで、犯人を教えてくれ。ただ本当の事を言ってくれさえすればいい。それだけだ。」
「おいちょっと君」
 刑事は言った。
「さっきからこの子が犯人ではなく、まるで真犯人がいるかの様な言いぶりだがな」
「ええ。半ば確信すら持っています」
 私は毅然とした態度で言った。「君は現場にいなかったから分からないだろうが、これは密室殺人なんだ。鍵を持っているもの以外の人にとってはだがね」
「密室殺人?」
「そう、犯人はまず鍵を持っていて持っていなければ敷地の中に入れない。今日は例外だが」
「鍵という意味での密室殺人ですね?」
「それだけじゃない。この家は敷地に入ってもドアを開ける為、鍵を持っていることが一つの条件、もう一つは暗証番号だ。彼女だけが知っている暗証番号がなければ家に誰も入れない」
「彼女のお父さんも鍵を持っているだろう。彼女のお父さんは今どこに?」
「彼女の父は今仕事でロシアに行っている。事件の晩とその前日の二日間に渡って、ロシアで会議をしている。証拠を捜すまでもなく。大事な会議なので、ローカルのテレビでも放送されている。周りの証言もある。
「お父様が会議?来ることができないという訳か。まるで完璧なアリバイですね」
 刑事は私に言った。
「君、想像力を豊かに、膨らますのも勝手だが、我々もいろいろな角度で疑った。疑って疑って、いろいろな可能性を考慮し考えついた結果、彼女を捕えた。それと肝心なことをもう一つ。彼女の家には3つのセキュリティーシステムのカメラがついている。一つは玄関、一つはリビング。もう一つは全ての部屋に誰が入ったかが分かる廊下のある場所に。私達はそのカメラに映されたものを見たんだ。本条さくらさんを。あの晩、彼女と母親の真由美さん以外誰も映っていないという確たる証拠をね」
「カメラか…それは決定的だな」
 私はポツリとそんな言葉を残すや否や一人のセーラー服を着た少女がやってきた。
「刑事さん。そのカメラというのはどこのセキュリティー会社のものですか?」
 ショートカットのセーラー服を着た少女は豹の様な素早い動きで刑事に近づき、同時にポケットからペンと手帳を出すという無駄のない動きで質問をした。額には汗もかいている。
「会社?会社までは今調べてみなければ分からないが…」
「その会社は確かに映像の管理ができているのか調べたいんです」
 少女はきびきびとした口調で言った。
「そう言われても…というよりちょっと君は一体誰なんだね?我々は勤務中だ。関係者以外むやみに情報を漏らしてはいけないんだ」
「私はさくら、本条さくらさんの親友です。さくらさんは私の先輩にあたります」
「友達か…でもいくら友達でも捜査の邪魔を許すわけにはいかない」
「捜査の邪魔をした覚えはありません。ただ質問をしただけです」
「とにかく、今忙しいんだ。帰ってからやらなくてはいけない事がたくさんある。一応本条さくらさんの担当だが、他にも担当を受け持っているのでね。では」
 その時そのショートカットの女の子は逃がすまいと俊敏に彼の前に立ち、
「では、刑事さん最後に名前だけでもいいですか?」
「名前?まあ、私は屋久島と言うが…」
「屋久島さん。分かりました。ありがとうございます。不躾な質問など、ご迷惑をおかけしました」
作品名:嘘と演技 作家名:松橋健一